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満員電車がちょっと軽減されて、携帯ポチリをする余裕が出てきました。
おかげで今回は少し早めに更新できた!

ちょっとだけ話が進んだ・・・かな?
でもまだまだ悠久ターン。
そろそろ兄さんメインの所に辿り着きたい←本音

 チップ入れ代わりのワンカップ酒の空き瓶一つ。

 それと、俺にこんなことを強要した青髪の青年。



 今、俺の前にあるのはたったそれだけ。





 久々に迎えた路上ライブは、そんなチンケなものだった。
 こんな、ステージも照明もない場所に立つのは、何年ぶりだろう。
 へたしたら、学生時代以来かもしれない。
 多分、あの頃は若かったせいもあるんだろう。
 客の反応とかより、バンド活動をすること自体を楽しんでいた。
 でもあの頃は客の反応もそう悪くはなくて、路上ライブをした後にメンバー全員で軽い打ち上げが出来るくらいには、毎回チップを貰っていた。

 もしかしたらバンドが一番盛り上がっていたのは、あの頃なのかもしれないな……そんなことを考えながら、俺はゆっくりと息を吸い込む。




 なんでここまでして俺に歌わせたがったのか知らねえけど、歌ってやるよ。

 ただし、後悔したって遅いけどな。




 俺を突き動かしたのはなけなしのプライドと、少しばかりの欺瞞。
 それと、懐かしさと憧れ。
 あの頃の思いを思い出せば、今の中途半端な自分から抜け出せるんじゃないか……そんな、僅かな期待みたいなものもちょっとばかりあった。
















 ん、だけ、ど……。











 どうやらオレという奴は、とことん人生を甘く考えるように出来ているらしい。




「あの…本当に歌手、なんですよ、ね?」


 歌が終わって、第一声。 

 馬鹿にしたと言うより、むしろ一種同情にも似た眼差しを向けられてしまい、俺は一気に落ち込んだ。
 いや、わかってはいるんだ。俺の歌唱力は歳を負う毎に落ちまくっていることは。
 でも、こうもストレートに真正面から言われると、なんとも凹む。
 正直大打撃だ。

 あからさまに落ち込む俺に、さすがに悪いと思ったのか、ソイツは慌てて言葉を付け足す。

「あ~っと、そうじゃなくてですね、」

「いーよ別に。俺が上手くないのは自覚あるし」

 同情に満ちた言葉なんて聴きたくなくて声を遮るように言い捨てると、青年はそれを否定するかのように勢いよく首を横に振った。

「違いますそうじゃなくて、ただ……」

 自分で否定しておきながら、視線を彷徨わせて言おうかどうしようかと悩んでる風を見せるソイツに、俺は多少の苛立ちを感じながら言葉を下す。

「ただ、なんだよ?」


「……なぜ、そんなにもつまらなそうに歌うのかなと」

「!? 」

 つまらなそう?俺が??

 予想外な感想に、俺は伏せていた顔を上げる。
 下手だ、基礎からやり直せ、そんな言葉はいくらでも貰って来た。
 けれど、つまらなそうに見えるなんて、今まで一度も言われたことがない。

「えと…声は悪くないと思うんです。伸びやかで張りもあるし、俺は好きですよ貴方の声。でも…」

 貴方の歌声は、どこか楽しんでない気がする。

「…俺が今歌ったのって、どちらかというとアップテンポの曲だったよな?」

 たとえアカペラでも、歌詞やテンポで十分その歌が明るいか暗いかはわかる。
 今俺が歌ったのは、少し前にライブで歌った曲だ。
 客の反応は……正直あんまりよくなかったけど。

「そうですね。曲だけならば、とても楽しそうな感じの曲でした」

 青年は俺の言葉をすぐさま肯定したが、けれどと続ける。

「……歌っている貴方は、ちっとも楽しそうじゃなかった」

 馬鹿にしてるとかそんな感情はまったく含まれていない、心底残念そうに悲しそうにソイツは言う。
 コイツは本当に音楽が好きなんだな―――そんな風に感じてしまうくらい、その表情は悲しみに満ちていた。




 そんな表情をさせたのは、紛れもなく俺の歌。

 俺の、歌声。




「少なくとも、歌うことが好きな人の歌い方ではなかった。むしろ…」

 貴方はどこか淡々としていて、明るい曲なのに聴いているとだんだん哀しい気持ちになりました。

「………。」

 ソイツの言葉は、トンカチでおもいっきり後頭部を殴り付けられたような、それくらい重みも衝撃もある一言だった。


 歌うことを楽しむ―――俺は、歌うことが楽しいと、最近感じたことがあっただろうか?

 ワザと難解な歌い方に挑戦するとか、複雑な曲を歌うとか技術面ばかり気にして、根本的な『歌うことを楽しむ』気持ちを忘れていた気がする。







 昔の自分は違った。

 昔の俺はもっとこう……歌に対して、純粋だった。








「なあ、」

「ハイ、なんですか?」

「……もう一回、聴いてくれないか?」



 今度はちゃんと歌うからさ。



 そう伝えると、ソイツはキョトンとした表情をして、それからもちろんと嬉しそうに笑って頷いた。
















 歌に対して純粋な気持ちで挑んでいた頃の自分。

 あの頃の自分は、どうやって歌っていただろう。
 技術もカリスマ性もない、この世界に幾らでもありふれている、平凡なアマチュアバンドのボーカル。
 でも、そんなの関係なかった。
 確かに売れたい気持ちはあったけど、あの時の歌は人前で歌えるだけで、仲間と観客とセッション出来るだけで、心は十分満足だった。
 歌って、騒いで、仲間と馬鹿やって……それだけで、毎日が充実していた。

 それが、彼女を失って、歳をとって余裕が無くなって、現実の厳しさを骨の髄まで味わって………いつしか寂しさを紛らわせることに、独りにならないことにばかり固執して、純粋に音楽を楽しむことを忘れていた。





 そうだ。

 昔の自分なら歌う場所なんて気にしなかった。

 ロクな機材も設備も無い、ステージもマイクすらない場所でだって、俺は歌った。

 喉の限界ギリギリまで声を張って、俺の歌が一人でも多くの人に届くように。



 歩みを止めて、俺の歌に耳を傾けてもらえるように。









 
 俺の前にはチップ入れ代わりのワンカップ酒の瓶。

 観客は一人。

 それだけで十分だ。







 スゥ…と息を吸い込んで、目を閉じる。





 客がいないなら、俺の歌で呼べばいい。







 ―――俺には、音楽を奏でる声があるんだから。






















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