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ボーマス新刊、マスカイ本のお試しです。←コピーになったため、この話は抜きました。
単品でお楽しみ下さい。







「マスター、今日の夕飯はなんですか?」

「あ~……今日はちっとばっかし疲れたから、簡単に天津飯でイイか?」

「オレ、マスターの卵料理好きです!」


日中は病院があるため、買出しなどはもっぱら仕事帰り。駅前にある24時間営業のスーパーが中心だ。
 カイトがウチに来る前は、そこで惣菜を買うか外食で済ませるかで適当に食事をしていたんだが、今はもっぱら自炊中心になっている。というのも、カイトが『そんなんじゃ身体壊しちゃいます!』と泣いて縋ってきたからだ。
 俺は別に料理が苦手というわけじゃない。むしろ独身男性にしては、そこそこ自炊は出来る方だと思う。ただ毎日遅くまで病院で仕事して、疲れた身体を引き摺って更に自分一人のために料理を……な~んて気力は無かったから、自然と食事が出来合いの惣菜か外食中心になっていたのだが、カイトという家族が増えて、一緒に食べてくれる相手が出来てからは、率先して料理をするようになった。
 しかもそれを結構楽しんでる辺り、まったく自分でも現金なものだと思うよ、マジで。
 でもさ、自分が作った料理を目の前で美味しそうに食べてくれる存在が居るって、スゲェ幸せなことじゃないか?

 ちなみにカイトは料理が出来ない。
 料理だけじゃなく家事全般が苦手――というか、単にアレは不器用なだけだな、うん。
 まぁアイツはお手伝いロボットじゃなくで、歌うためのアンドロイド……『ボーカロイド』なのだから、家事が出来なくったって不思議じゃないし、別に俺はそんなことをさせるためにアイツを引き取ったわけでもいから特に気にしていないんだが、どうもカイト自身はそれでは納得できないらしく、不器用は不器用なりに一生懸命手伝いをしてくれる。
 そんな姿は正直とても微笑ましいし健気なので、よっぽど酷い失敗をしない限りは叱ったりしない……というか、怒る前にどん底まで落ち込んで隅っこで丸くなってるから、単に怒る気力がまるっと削がれちまうだけだがな。

「マスターマスター!ダッツが3割引です!!」

 カイトが嬉々とした表情で後ろを歩く俺を振り返り、通路の先にある貼紙を指差す。
 その指が指し示す場所には確かに『ハーゲンダッツ3割引!本日限り!!』と、黄色の貼紙が精一杯の自己主張をしていた。 
 俺は反射的に、自宅にある独り暮らしにしてはやけにデカい冷蔵庫の中身を思い浮かべる。
 昨夜カイトが食べていたのはピノ。残りの買い置きはチョコミントファミリーサイズとガリガリ君だけで、ダッツは切れていた筈だ。
 腹を壊されても困るので、カイトには『アイスは一日二個まで!』と約束させている。
だから本当はそれだけあれば当分もつのだが、カイトにとってアイスの中でもやはりダッツは別格らしいので、安売りをしている時はなるべく買ってやるようにしていた。

……む、そういやこの間から値上げしたんだったな。そうじゃなくても高いってのに。

「よしカイト、5個までなら許す」

「ハ~イ♪」

 俺にお許しを貰ったカイトは、さっそくとばかりに業務用冷蔵庫に頭を突っ込んで、真剣な顔で物色し始める。
 あ、コラ。そんなに顔突っ込むと、また髪に霜が付くだろうがっ…て、ああああもう付けてやがる。お前はどこぞの小学生か、アイスは逃げねぇんだから落ち着いて選べっての。
 
 結局カイトが選んだのはバニラ二個、ビターキャラメル、抹茶、リッチミルク。
 残念ながら夏季限定のソルベとドルチェは割引対象外だったらしい。
 あ~もうそんな名残惜しそうな顔するな、次にダッツが切れた時にでも買ってやるから。


「マスター、あと何買うんですか?」

「あ~確か柔軟剤が切れてたな」

 そろそろ溜まった洗濯物を片付けなければ、洗濯機から溢れそうだ。一人ならば一週間に一度でも問題なかったが、今は二人だから洗濯物が溜まるのも早い。せめて週に二回は洗濯機を回さないと、あっという間に洗濯籠は二人分の洗濯物でいっぱいになってしまう。
 幸い明日は休みだし、選択も掃除も一気に済ませてしまおう。

「マスター、じゃあ明日はお布団も干しましょうね!」

 カイトは干したての布団が大好きだ。
 よく干した後にベッドに転がしておいた布団や毛布に包まっては、満面の笑みを浮かべて小動物のように昼寝をしている。
 そんな光景を発見する度に『コイツホントにボーカロイドか?』と疑問に思う。
いや、れっきとしたボーカロイドなんだが。

「あ~明日晴れたらな。雨だったら布団乾燥機で我慢しろ」

 おりしも今の季節は梅雨真っ盛り。
たとえ天気予報が晴れと言っても、雨が降る確立は結構高い。

「お日様に当てた方が気持ちいいです……」

「さすがの俺も、天気ばかりは変えようがねえよ」

 どうやらカイト的に布団乾燥機は、あまりお気に召さないらしい。
 アレはアレでなかなかイイと思うんだけどな。
確かにカイト曰く『お日様の匂い』ってのはしないけど。

「雨降るのがイヤだったら、テルテル坊主でも作って窓辺に吊るしとけ」

「なんですか、それ??」

 棚に並ぶ数種類の柔軟剤の中から、お決まりのメーカーのソレを手にとって籠に入れ、道すがらに発見した風呂用洗剤もついでに投げ入れる。
 うし、今日の買い物はこんなもんだろ。
 片手に篭をぶら下げて、もう一方の手でカイトの手を引きながらレジに向かう。
まだ九時前だからかレジはそこそこ混んでいて、一番奥の列の最後尾に並ぶ。

「ますたー、テルテル……って?」

 聴き慣れない単語を出されたからか、カイトは疑問でいっぱいの視線を俺に投げかけてくる。

「後で詳しく教えてやるよ。多分不器用なお前でも直ぐ作れる筈だし」

 言葉で伝えても多分こいつの想像力じゃ理解出来ないだろうから、夕食後にでも実地で教えてやろう。ティッシュ丸めて包んで紐で首縛るだけなら、どんなに不器用な奴でも早々失敗したりしないだろうし。

「う~~~~……」

 不器用という言葉に反論したいが、『テルテル坊主』がなんたるかわからないので、何も言い返せないらしい。不満げに口を尖らせて上目遣いをしてきたって、可愛いだけだぞお前ってか、こんな公共の場所でそんな顔するな。襲いたくなるから。



 会計を済ませてレジ袋に買った物を突っ込んで、ソレをぶら下げながらのんびりとした足取りで車に向かう。
 もちろん空いた方の手には、カイトの手。

「マスター、星が見えます」

「ちょっと曇ってるけどな」

 見上げた空は不安定。
 天気予報を観てないからよくわからないが、多分降水確率はフィフティ・フィフティ。
 それにテルテル坊主を加えれば、気紛れな太陽ももしかしたら顔を出してくれるかもしれない。

「マスター」

「あ?」

「ちゃんと教えて下さいね、てるてるなんとか」

 ソレで絶対明日晴れにして見せますから!
 そう意気込む姿は、まさに真剣そのもので。

「……プッ」

「あ!なんで笑うんですかマスター!!」

 その必死さ具合についつい噴出してしまうと、カイトは怒ってますと訴えるようにプクッと頬を膨らませ、子供のような仕草で俺のシャツの袖を引っ張る。
 あーなんだろうな。お前、何したって可愛いわ。

「そうだな、頑張って晴れにしてくれ」

 雨も悪く無いけれど、カイトは青い空の下の方が絶対似合う。
 明日晴れたら二人で洗濯して掃除して、カイトの要望通り布団も干して、散歩がてらに出掛けるのもいいだろう。
 近くのアイスショップに新作フレーバーを食べに行くのもイイ。
 梅雨の合間の貴重な晴れの日を、カイトと一緒に存分に楽しみたい。

 平穏で平凡な日々。
それでもオレ達にとってはとても大事なことで、幸せなことだから。

「一緒に作ろうな」

「はい!」

 後部座席にレジ袋を投げ入れて、車のキーを回す前に、助手席に座る青い髪を撫でてやると、カイトはキョトンとした顔をしてから、心底嬉しそうに笑った。


                                          20080610




















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