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本当はもっと進めてからうpしたかったのですが、あまりにも更新が無くて挫けそうになったので上げる。
マスターしか出て無くてスマン。

 これといって特に興味は無かった。
 番組の特番やCMでその姿を見ることは多々あったが、車一台分もする娯楽商品(としか思えない)など、高額所得者やその筋の仕事を生業としている者ならばいざ知らず、ごく普通の一般市民が気軽に手を出せるような代物ではなかった。

 けれど。

月日が経つにつれ、次第に街中でもぽつぽつと彼らの姿を目にするようになった。
 それだけ、彼らの性能が良かったという証なのだろう。
 現に病院を訪れる人の中にも購入した女性がいて、孫の遊び相手になってくれていると笑顔で話してくれた。


 『ボーカロイド』


 これまでの作業用アンドロイドとは一線を画す性能を備えたそれは、労働力の補佐ではなく、娯楽に分類される性能―――『歌うこと』を専門に造られた次世代のアンドロイドだ。
 世間一般的に有名なのは、ボーカロイドの存在を大々的に世に知らしめた女性型ボーカロイド『初音ミク』だが、実際に販売されている種類はさまざまで、各年齢層に対応出来るように展開されているらしい。
 頭脳もかなりの制御をされている労働アンドロイドとは違い、多種多様な歌を歌いこなせるよう情緒面もかなり細かに設定されていて、置かれる環境によって人間と同じように『個性』も芽生えるらしく、彼らを単なる『物』ではなく『新しい家族』として迎える者が格段に多かった。
 だからこそ、高額商品であるにもかかわらず市民に浸透しつつあるのかもしれない。
 けれど、新しい家族が欲しいわけでも、一時齧った事はあってもその類の趣味を持っているわけでもない俺にとっては、ボーカロイドなど無用の長物。

 世の中にはそんなものがあるんだなー程度の認識しかなかった。





 ――― のだが。


「………。」

 朝の7時。
 普段からあまり人通りの少ない、住宅地の一角にある細い道。
 職場である自営の動物病院へ徒歩で向かっていた(普段は車を使用しているのだが、今日は車検に出していたため今日に限って徒歩だった)俺は、その道すがらで一生無縁と思っていた存在に前触れも無く出くわした。



 しかも、だ。



「――これも一応『落し物』になるのか?」

 普通に歩いていたのではなく、道沿いの電信柱の下に設置されていたゴミ集配場の前に『落ちて』いたのだ、それは。
 一瞬人間かと思ったが、多少薄汚れてはいるがカラーリングなどでは絶対に出せないだろう鮮やかな青色の髪と同じ色の眉や睫に加え、どこか無機質めいた容姿を持つ存在に、すぐにこれは人間ではなくアンドロイドだとわかった。
 では何故それがアンドロイドの中でも特殊なボーカロイドだと気づいたのかというと、耳に取り付けられたインカム――ボーカロイドにとっての無線端末の役割も担う特別なインカム――が、乱れた髪の間から見えたからで。
 パニックに陥っていた割に対象物を冷静に観察することができたのは、やはり獣医といえども『医者』という職業に就いているからだろう。
対象が人間ではなく動物とはいえ、急患で担ぎ込まれてくるのは紛れも無い命だ。どんな状態を目の当たりにしようと、何時如何なる時でも最善を尽くせるよう、それなりに訓練している。

 とにかく俺はその植え込みに仰向けになって倒れていた存在をそのままにすることも出来ず、とりあえず抱き起こして近くの木に寄りかからせると、ウチで唯一の看護士に携帯で遅れる旨を簡単に連絡してから、落し物といえばの代名詞である交番に届けることにした。









 で、15分後。

 程なくして自転車に跨ってやってきた警察官は、それを見るなり渋い顔をした。

「ああ……確かにこれはボーカロイド01シリーズの『KAITO』ですね」

 やはり俺の予想は間違っていなかったらしい。
 警官はこの手のことに慣れているのか、起動していないボーカロイドを手早く検分し、バインダーの書類に何かを記していく。

「製造番号が故意に潰されてますね……これは十中八九、違法投棄でしょう」

 警官が指差す先を見ると、薄汚れたコートの隙間からのぞく人工皮膚の一部分……そこに本来あるべき筈の固体識別番号と製造バーコードが、見るも無残に焼き潰されていた。
なまじ人間そっくりに作られている分、黒ずむほどに焼け爛れた皮膚は余計に生々しく感じた。

「最近多いんですよ、不要になった旧式を正式な処分手順を踏まないで捨ててしまう輩が。まぁ処分するにもリサイクル法やアンドロイド法の関係で、それなりの金額がかかりますから、不法投棄したくなる気持ちもわからなくないんですけど」

 人間に尽くしてくれていた存在を、こうもぞんざいに捨ててしまう人の神経はどうかと思いますよ。
 眉を顰めながらも検分する手を止めないのは、彼にはどうすることも出来ないことだと割り切っているからだろう。
 それは、俺も同じで。
 どんなに同情的な感情を抱いても、ただの一般市民でしかない俺にはどうすることも出来ない。

「コイツ……どうなるんですか?」

「固体識別番号もバーコードも潰されてますからね。引取り人が現れない限り、可哀想ですが、このまま廃棄処分ということになります」

 調べなければなんともいえませんが、おそらく内部もかなりガタがきてると思いますよ。
 衣服に隠れていたボディの至る所に刻まれていた、明らかな暴行の跡。顔だけが綺麗に保たれていた分、余計に痛々しく見えた。

「………。」

 主人に散々甚振られ、意識の無いまま無造作に捨てられたボーカロイド。
 この分だと本来の目的である『歌う』ことさえ、彼は満足にさせてもらえていなかったのかもしれない。
 アンドロイドは、『人間に従順であること』を前提にして造られている。
 特にボーカロイドは起動させられ、マスター登録した瞬間から主を慕うようプログラムされていると聞く。
 たとえ暴行されようと詰られようと、壊れる瞬間まで主だけを求め、慕う。
 嗜虐的思考の持ち主にとって、ボーカロイドはこれ以上に無い存在だ。
 普通のアンドロイドと違い、感情も五感をも持つ彼らを嬲ることは、本物の人間を嬲るのとそう大差ない快感を得られるだろう。
 しかもそれによって壊したとしても、大した罪にはならない。
 アンドロイド保護法なんてものは一応存在するが、それでもアンドロイドが虐待されている事実は一向に減らず、一部社会問題にさえなっている。
 それはそうだ。
 事実が発覚しても、所詮対象は命なき、仮初の命。
 器物破損に毛が生えたような罪にしかならず、100万円以下の罰金と、アンドロイド購入制限を掛けられる程度の処置しかされない。
 そして制限を掛けられた人間は、今度は不正取引されたアンドロイドを購入し、同じことを繰り返すのだ。
 法があろうと、何も変わらない。
 これからもこういった可哀想なアンドロイドは増え続け、消耗品として処分され続けるのだろう。
 そこに個性や感情があったとしても。






「あの……、」

 気がつくと俺は、職務を全うしている警官に声を掛けていた。

「ああ、もう結構ですよ。すみませんね出勤途中にお引止めして。一応拾得者として登録はさせて頂きますが、引取って頂くとかはありませんので」

 人のよさそうな笑みを浮かべ、申し訳なさそうに告げる警官に、俺は慌てて首を横に振る。

「あ、いや…そういうことじゃなくて」

「では?」

「えーと……コイツを起動させることって、可能ですか?」

「ハ?」

 俺の問いがかなり予想外だったのか、素っ頓狂な声を上げる。

「あ、いやだから、このボーカロイドを今すぐ動かすことは可能ですか?」 

「何故?」

 警官の疑問はもっともだった。
 俺だって自分の言動に『WHY?』と訊きたいくらいだ。
 思考の片隅で『面倒なことになるから止しておけ』と、冷静な俺が警戒音と共に訴える。
 それでも俺は、訊きたかった。
 時計仕掛けの眠り姫と化している、この不法投棄された哀れなボーカロイドに。
 俺の問い掛けをようやく把握したらしい警官は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「バッテリーは僅かではありますが残っているようですので、それは可能ですが……止めておいた方が良いですよ。下手に接触して情が湧いたりしたら後々面倒ですし、第一自分が廃棄されると本人に自覚させるのは、あまりにも可哀想です」

 彼らには感情が備わってるんですから。

「それは、わかってます。でも……」

 感情が備わっているならば、自分の生き死にくらい、自分で決めたいに決まっている。
 確かにボーカロイドに命はない。
 でもそこに感情があって個性があって五感があって……生命で無い以外は人間と大差ない存在が、ゴミとして扱われる様を目の当たりするのは、どうしても嫌だった。
 それは多分、俺が獣医だということが関係しているのだろう。
 動物もアンドロイドと同じように、大事にされる傍らで、虐待されたり、人間の勝手で捨てられたり殺されたりしている。
 けれど彼らは喋る術を持たないから、自分の思いを人間に伝えることは出来ない。
 だが、だからといって感情が無いわけではないのだ。
 虐待を受け、保護された動物達は皆、その瞳に人間に対する絶望や憎悪の色を称えていた。
 まるで、俺達人間に訴えかけるかのように。


 ボーカロイドには、命が無い代わりに喋る術がある。
 単なる自己満足にしかならないかもしれないが、たとえその先が絶望であろうと自分の最後くらい、自分に決めさせてやりたいじゃないか。


「お願い、出来ませんか?」

 もう一度、念を押すように言うと、警官はしばらく視線を彷徨わせ、そして深々と溜息を吐いた。

「……私は、責任取れませんからね」

「それは――わかってます」


 相手を正面から見据え、しっかりと頷く。


 でも俺はこの時、頷きながらも自覚が無かった。
 彼を目覚めさせることに対する、責任の重さを。




 






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