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大変お待たせ致しました!
ようやくこどもの日完結です~

ギャグのはずだったのに、いつの間にかちょっとしんみりに(汗)


「オレは今、カイト兄の偉大さを痛感している」

「奇遇だね、あたしもよ」


 そう頷きあった双子は、目の前に広がる凄惨な光景に深々と溜息を零した。






 朝食は、まぁなんとかなった。
 ご飯もトーストも無くても、日持ちするからかレン用のコーンフレークの買い置きは十分にあった。難点を言えばおかずが無いくらいだったが、冷蔵庫に果物もあったし、今日くらいちゃんとしたご飯を食べなくてもそう支障は無い。
もしもこの場に主夫業命の長男が居たら『そんなんじゃ栄養バランスが偏るよ!』と叫びそうだが、生憎その兄は朝食に関して一切文句も口出しもせず、リンのお膝に座って口の周りを汁でベタベタにしながら夢中で出されたオレンジに齧り付いていた。




 が。しかし。



――― 問題は、その他のことだった。




 家族全員、家事一切を長男に任せっきりだったため、何をどうすればいいのかまったくわからなかったのだ。
 それでも各自何とか家事をこなそうとはしたものの、結果は散々なものだった。
 朝食で使用した食器を洗えば皿を割り。
 洗濯すれば色移りと縮みのコンボ。
 掃除機を掛けようとしたら何故かゴミシューターが暴発し。
 せめて布団だけでも干そうとしたら、物干し竿に掛ける前に庭に落として泥まみれにしてしまった。


 長男以外、まったくの家事能力ゼロ。
 これはもう笑うしかない。


「これをカイトお兄ちゃんは、一人で全部午前中に終わらせてたんだよね?」

「そうね」

「それって実は、すごくね?」

 俺ら総出でやってこの状態なのに。
 起きた時以上に凄惨な状態と化した家の中を見つめながら、面々は途方に暮れた。
 気持ちとしては出来れば今すぐにでもカイトに帰ってきてもらいたいのだが、その本人は現在隣家の愛猫いよかんと、縁側でのんきに遊んでいる。
これが通常の長男の姿だったならば、この時点でメイコがシバいて即行家事をやらせるところなのだが、心も身体も幼児化してしまった彼に家事をさせることは不可能だった。
 そんなわけで、まるで強盗でも入られたような悲惨な状態で放置された家のリビングで、家族はペットボトルのお茶を飲んでいた。急須からのお茶でないのは、手ずから入れてくれる本人が不在だからだ。
 普段は普通に美味しいと思うそれも、今はなんだか味気なくて仕方ない。
 長男の淹れたお茶がこんなにも恋しくなるなんて、これまで一度だってなかったのに。

「……もしかして、マスターはこれを私達に知らせたかったのかな」

 ポツリ、と両手の中でグラスをくるくると回しながらミクが呟く。

「これって、何が?」

「お兄ちゃん、毎日私達の世話を一生懸命してくれてるのに、私達はそれを当たり前のように思ってたから……」

 本当は毎日感謝をしなきゃいけないのに、いつの間にか当たり前になっていて、当たり前過ぎて兄に感謝する気持ちが無くなっていた気がする。

 だから今回のことは、マスターからの警告なのかなって。

「でもカイトは自ら進んでやってるわよ?しかも楽しそうに」

 嫌な顔一つせず、それどころか鼻歌交じりで家事をこなしていたカイト。
 もともと馬鹿正直で嘘を吐くことが苦手な彼が、嫌々やっていたとはとても思えない。

「あ~でもさ。それってオレ達全員が家事出来なくて、結果的にカイト兄がやることになってからだろ?その前は……」

「一応、当番制……だったわね。そういえば」

 ほんの一週間程度だったけど。
 その一週間の間に家族の見事なまでの家事能力の無さ具合が露呈し、比較的マシだったカイトが全てを担うこととなったのだ。

「つまり、お兄ちゃんがああなっちゃったのは、私たちのせいってこと?」

「全部が全部ってわけじゃないだろうけど、多分ね」

 家族が多ければ、それだけ家事の仕事も自然と多くなるし、もともとカイトは器用な方ではないから本業そっちのけでやってたら、いつの間にか家事に楽しみを見出してしまったのかもしれない。

「ああ、ありえそう…」

「うわ、なんかものすごく納得」

 カイト(お)兄(ちゃん)、結構一途でのめり込み易い性質だし。

「……じゃあ今日は、マスターからいつも頑張ってるカイト兄への休息日ってワケか」

「多分、それだけじゃないとは思うけどね」

 休息日にするだけならば、わざわざ子供の姿にする必要は無いだろう。
 主婦業がすっかり板についてしまったカイトには、ただ休めと言っただけでは無理だと判断したからこそ、何も出来ない幼い子供の姿にしたのかもしれないが、絶対にそれだけの理由ではない。
 これは間違いなく、
 
「『こどもの日』をネタに、心底楽しんでるんだろうねー」

「こんな美味しいネタ、見逃す筈無いモンねー」

「研究所の奴らも、あれでなかなかどうしてお祭り好きだし」

 ボーカロイド開発の研究所に勤め、研究のみに日夜費やしているような真面目人間の集まりだが、実は結構お茶目な者達も多かったりする。きっと今頃、ボーカロイド幼児化(エコ化?)成功の祝賀会でも開いているに違いない。
 一番不憫なのは、ワケも判らず幼児化させられてしまった長男だろう。
 その張本人も今は主婦だった記憶も綺麗さっぱり忘れ、暢気に猫と戯れているのだから、余計涙を誘う。
 長男の威厳も形無し(まぁ元からあまり無かったが)だ。

「どうせマスターの気紛れに過ぎないから、明日には元に戻してくれるんでしょうね」

 というか、この家の中の惨状を目にして、危機感を覚えない方がオカシイ。
 一応掃除を行った筈なのだが、はっきり言って足の踏み場も無い……むしろ泥棒に入られたと言った方がしっくり来るほど短時間で荒れ果てた家の中に、ほろ酔いで帰ってくるであろうマスターは、絶句するだろう。
 もしかしたら、あまりにも驚き過ぎて、研究所に泣きつくかもしれない。

「ま、それもイイかもね」

 これだけ私達を混乱させたのだから、それくらいあっても罰は当たらないだろう。
 マスターの思惑通り、カイトの存在が実はこの家にとって物凄く有難かったことには、ちゃんと気づいたのだから。

「アンタ達、これからはカイトの手伝いもちょっとはするのよ?」

 破滅的な家事能力の無さだから、殆ど役に立つことなど出来ないだろうが、手伝おうとする意思を持つだけでもかなりの進歩だろう。
何せこれまでは、家事のすべてを長男に丸投げだったのだ。
 長女のお言葉に、弟妹達は素直に頷く。
 けれど、ふと疑問に思った次女が。

「……おねーちゃんは?」

 しないの?それってずるくない??と、含みの無い純粋な瞳で見つめられ、メイコはグッと息を詰める。

「私は……私もするわよ、モチロン」

 出来る限り、ね。

 そう胸中で呟いたことは、自分以外の全員に内緒だ。




 などと、実は家族全員が同じ事を呟いていたことなど、ぼかろ家の皆さんは誰一人気づいていなかった。





























 そして、次の日。

「おはよ~みんな。おなかすいたでしょ?」


 無事に元の姿に戻った長男が、もそもそと起きてきた家族を朝陽に負けないくらいの爽やかな笑顔で迎えた。
 いっぱい食べてね~と普段よりもやけに豪華な朝食の群れに、一同は右ならえで首を傾げる。
 ちなみにあれほど荒れ放題だった家の中は、一体いつの間に片付けたのかと目を疑うほど綺麗に細部まで整頓されており、塵一つ落ちていなかった。
 スーパー主夫の本領発揮とでも言うべきか。
 改めてカイトの家事能力の高さに脱帽である。

「どうしたのよ、朝からこんな…」

「ん~別に大したことは無いんだけど。ただ、昨日はみんな頑張ってくれたから、そのお礼…かな?」

 そう言って満面の笑みでお玉を抱える長男に、ぼかろ家一同は『もしかして全部覚えてるんですかいっっ!?』と心底驚愕する。
 あれだけ外見も頭も幼児化していたのだ。戻ったら絶対に忘れているとばかり思ったのに、どうやらバッチリと記憶に留めているらしい。

「レンもリンもミクも、俺のこと面倒見てくれてありがとうね」

 子供の世話なんてしたことなかったから大変だったでしょ?と訊ねてくるカイトに、弟妹達は何故か顔を赤らめながら一斉にブンブンと首を横に振って否定する。

「ううん全然!」

「けっこう楽しかった!」

「貴重な体験したし!」

(((カイト兄(ちゃん)すっっっっごく可愛かったし!!!)))

 あんなにも素直で可愛らしい弟ならば、いつでも大歓迎だ。
 家事の問題がなければもっと長い間あのままでも良かった、などとは流石に本人を前にして言えないので、心の中だけでグッと拳を握る妹弟達。

「そう?なら良かった」

 俺も嬉しかったよ~お兄ちゃんお姉ちゃんに甘えられて♪と、ほにゃりと笑う。どうやら彼には弟妹達にみっともない部分を見せてしまったとか恥ずかしいとか、およそマイナス思考はまったく抱いていないようだ。カイトらしいと言ってしまえばそれまでなのだが、長男なのだしそこら辺もうちょっと気にしても良いような気がしないでも……

(((まぁ、カイト(お)兄(ちゃん)だし……)))

 世間にしっかりと認識されるまで、散々あの青いの誰だのネタしか出来ないだの仕事選べないだの言われ捲った下積み時代を過ごして来たのだ。見た目はホヤホヤしてて天然で打たれ弱そうでも、これぐらいの事でショックを受けるほど柔な神経はしていないのだろう。




 ダイニングテーブル乗る、ホカホカと湯気を立てている美味しそうなおかずの数々。
 目の前には、朗らかな笑顔を浮かべるカイト。
 一昨日までは当たり前のようにあったものだけど、昨日だけは無かったもの。
 ずっとなんでもない光景だったのに、今日はやけに嬉しく感じる。
 あんまり認めたくは無いけれど、そう感じるのはきっと(予想通り昨夜ベロベロに酔っ払って帰ってきた早々家の惨状に仰天して研究所にユーターンした所為で現在ダウンしている)マスターのおかげだ。
 自分達の生活が何事も無く平穏に、快適に過ごせるのは兄のおかげ。
 あまりにも地味過ぎて気付かなかったけれど、昨日一日だけで死ぬほど痛感した。

 ウチには兄の存在は必須、だ。



「昨日の分もいっぱい食べてね~みんなの好きなものたっくさん作ったから」



 ぼかろ家は、今日も平和だ。





                                       2008.10.12 AK







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