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若干文章が変わったりするかもですが、出だしはこんな感じ。


気になった方のみどうぞ~



 その日、会社のメールアドレスに一通のメールが届いた。




『貴方が所有している世界初のボーカロイドを買い取りたい。代金はそちらの言い値で』



 あまりにも簡潔な文章に、俺は眉を顰めた。
 顔も知らない人間が挨拶も無く、突然所有しているボーカロイドを買いたいだなんて、どんな非常識人だ!と憤りすらも感じた。
 その直後、俺はあることに気付いた。


 ―――俺は、自分がボーカロイドを所有している事を他人に話したことは無かったのだ

 俺がボーカロイドを…カイトを所有している事を知っている人間は、一族でも一部だけ。家督を継いだ叔父と、俺の親父とお袋。後は元女中頭のトシさんと祖父の遺産相続時に世話になった弁護士くらい。
だが俺がボーカロイドを所有している事を赤の他人に話したりするような人間はいない


 では一体、何処からそれを知ったのか。







 それが、コトの始まり。























 カイトが住んでいる場所は、親父の一族が所有している土地の一角にある大きな温室だ。
 外見はともかく、実際は何十年も前に造られたボーカロイド…世間一般には公開されていない(公表される前に俺の祖父がカイトを引取ってしまったため)が、世界初のアンドロイド型ボーカロイドであるカイトの中身は結構ガタが来ているらしく、特に肺機能が極端に落ちているため、特別な空気清浄が施されたこの温室でしか稼動することが出来なくなっている。他人からすれば行動を抑制されたその状態は苦痛以外の何者でもない筈なのだが、当の本人は至ってのほほんとしたもので、毎日本を読んだり鳥や動物と戯れたり、ボーカロイドの本分である歌を歌ったりして、それなりに日々を楽しんでいた。
 ちなみに、そんな骨董ボーカロイドのマスターになっているのは、俺自身が望んだことではない。
 何を隠そう、このボーカロイドはプロトタイプということで、通常市販されているボーカロイドたちとはかなり規格が違っていて、なんとロボット三原則以外の制約は殆ど施されておらず、歌を歌うのも自由ならばマスター登録・解除まで自分の好きにできるという、普通ならばありえないボーカロイドだったのだ。
おかげで俺は若干3歳、自覚も認識もないままコイツのマスターにされていて、再会した当初は随分と驚かされたもんだ。





そんな、いろんな意味で規格外なボーカロイドカイトだが、それなりに上手くやっている。
カイトは温室から出られないため、もっぱら俺が通いマスターをする羽目になっているのだが、此処に来ればたくさんの緑に囲まれてマイナスイオンを大量補給出来る上、カイトの世話をするためだけに温室の隣にある休憩所(と華ばかりの立派な家)に常駐しているトシさんの美味い飯が食えるし、最近ではカイトも料理を覚え始めたので、アイツの手料理を味わったりして、それなりに通いマスターライフを楽しんでいた。







 強いて言うならば、難点が一つ。









 そんなに深刻になることは無いと周囲は言うのだが、俺にしてみれはかなり重要。

 というのも、俺のボーカロイドは――――








「マスター、いつになったら僕のコト抱いてくれるんですか?」

「ぶふぉおっっ!!!」

 狙ってるのか?そうか狙ってるんだな?じゃなきゃ俺が茶を含んだ瞬間にそんな台詞を吐くはずがないよなぁ?それだけだろう?それだけだと言ってくれっっ!!!!

「大丈夫ですかマスター?別に急いで飲まなくても、お茶は逃げたりしませんよ」

 ニコニコと、それはもう見ている人間がほわわ~んと和みそうなくらい朗らかな笑みを浮かべた俺のボーカロイドは、前言を撤回するどころか「で、いつですか?」と悪びれもせずに更なる追い討ちを掛けた。



 
 この一場面で理解したかと思うが、この色々と規格外な世界初のボーカロイドは、言うに事欠いて俺に『一目惚れ』したらしいのだ。
 おかげさまで此処三ヶ月、コトある毎にこういって迫られていたりする。

 しかも、だ。

 そんな場面を幾度と無く目にしている周囲の面々は、カイトを止めるどころか、むしろ。




「カイトさんは本当に紘也様のことがお好きなんですねぇ」

「ハイ!愛してますから!」

「紘也はちょっと奥手な所があるからね。カイト君頑張ってね」

「ハイ!僕頑張って押して押して押し捲ります!」

「アハハハハ!でも押し倒すのだけは止めてあげてね?一応紘也も男の子だから」









――― 心から推奨していた。






 お前らみんな悪乗りし過ぎだ。

 しかも冗談じゃなく本気で言ってるからもう……手に負えない。


「紘也もいい加減、観念すればいいのに」

 カイトが手ずから入れた紅茶を美味しそうに飲みながら(実際美味い)、しみじみと親父が呟く。
 俺はまだまっとうな道から外れたくないですってか、実父自ら道を踏み外すような真似を推奨しないで下さい。
 同性ってだけでも十分なのに、カイトは人間じゃなくてあくまでボーカロイドなんだが、どうも俺の周囲は頭が柔軟過ぎる人間ばかりらしい。
 世間の偏見とかタブーとか、そんな一般常識的な感性など何処吹く風だ。

「そうですよー。マスター俺のこと嫌いじゃないでしょう?」

 俺だって、かなり変則的な経緯(というか強制的に)でカイトのマスターになったものの、基本的に素直な性格のカイトを嫌う要素なんて何処にも無いから、ボーカロイドとしてのコイツには溢れるほどの愛情を注いでいる。でもそれはあくまでマスターとしてであって、そういった恋愛対象で見たことは一度も無いのだ。
 それなのに、周囲は俺とコイツをくっつけたがるので、マジで勘弁して欲しい。
 俺は此処に癒されに来ている筈(正確にはカイトに調教を施す為なのだが、半分は俺の癒し補給が目的だ)なのだが、コレではとてもじゃないが癒されない。
 精神的苦痛に耐えかねてグッタリとソファに身体を沈めると、すかさず隣に居たカイトが何処からともなくブランケットを取り出し、俺の膝に掛けた。

 こういったさり気ない気配りは、とても嬉しい。




 が、それを目撃した周囲が。



「あらあら、もうすっかりカイトさんは奥さんですねぇ」

「うん、ウチの嫁は優秀だね」

 なんて言うもんだから、俺の気分は沈む一方だった。


















 そんな平凡のような平穏ではないような微妙な日々を送っていたある日。

 俺の会社のアドレスに、おかしなメールが届いた。
 







 内容はあまりにも簡潔明瞭。
 カイトを購入したい……その一言だけが書かれた内容。
 最初は単なる悪戯かと思った。
 けれど、俺がボーカロイドを所有している事を知る人間は限られている。
 そのメールは一回じゃなく、初めは週に一度。
しばらくすると三日に一度。
最終的には毎日送られてくるようになった。
しかも内容的にもだんだんと脅迫的になり、最後に送られてきたメールには『大人しく売らないと周囲に悪いコトが起きる』とまで書かれていた。
それでも直接的な被害を受けてはいなかったから、随分と性質の悪い悪戯をする奴も居るもんだな、と無理矢理自分の中で完結させていた。
 多分、悪い字体を受け入れたくないという、勝手な自己防衛手段を取っていたに過ぎないのだろうが、その時の俺は何の疑問も抱かずに、そのメールを破棄し続けていた。








 けれど、ある日。





 普段と同じように週末の昼間にカイトの元を訪れると、そこにはいつもの朗らかな笑顔は無く、どこか心痛な面持ちのカイトが居た。
 自作の大きな水色のクッション(中身の自分の羽らしい)を抱きしめ、ソファに座るカイトはとても不安そうで、俺はワケも判らず青色の髪を撫でてやり、膝を折って下から覗き込むようにカイトの顔を見ながら、不安がる原因を出来るだけ優しい声音で訊ねた。





 すると。




「……なんだか最近、視線を感じるんです」

 俺に頭を撫でられて少しだけ気分が落ち着いたのか、カイトはクッションに埋めていた顔を上げると、消え入りそうなほど小さな声でそう答えた。

「動物とかじゃなくて?」

 この温室には小鳥以外にも小動物が自由に入り込めるよう、何箇所か小さな入口が作られている。元々は無かったらしいのだが、カイトが寂しくないように祖父が後から作らせたらしい。おかげでしょっ中この温室には小鳥やら様々な動物が姿を見せているのだが、カイトは俺の言葉をすぐさま否定した。

「違います。動物さん達なら、俺だってすぐにわかります」

 そんな視線じゃない、とカイトは繰り返す。

「どちらかというと観察されているような……とても嫌な気持ちになる視線を感じるんです」

 ここを訪れる人間は限られている。
 俺達以外に中に入れる人間なんて、定期的に温室の空調点検をしている業者ぐらいなのだが、それだって一ヶ月に一度くらいだ。それに温室の入口は前回叔父の騒動で壊された際、ちゃっかり網膜パターン照合の最新式電磁ロックのドアに替えたので、そうそう他人が中に入ることは出来ないのだが……その事実を知っている筈のカイトは、それでも視線を感じるのだと俺に訴えた。




「怖いです、マスター」

「カイト…、」

「怖いです。このままじゃ僕、マスターと一緒に居られなくなりそうで……」

 クッションを離し、そっと手を伸ばされたカイトの綺麗な手が、俺の服をキュッと小さく握る。
 いつもは躊躇なく抱きついてくるくせに、その力はとても頼りなくて。


 こんなにも不安がるカイトを目の当たりにしてしまうと、これまでずっとメールの存在を無視し続けていた俺も、流石に焦りが出るというもので。
 けれどこれといって特出した取り得も力もない俺には、カイトの不安を取り除いてやる手段を持っていないため、仕方なく親父に相談することにした。


 普段の親父は、俺と同じく極普通のサラリーマン。しかもどーでもいい課の課長という、とても平凡な職業を選んだ人間だ。けれどその裏では一族を支える重要なコーディネーターの役割を担っているというのだから、人間見掛けによらないものだ。
 そんな親父だから当然色んな分野にも精通していて、とてつもなく顔も広い。実は祖父が亡くなった時、本当は家督を継ぐのは親父が一番適していたのだが、本人にその気はまったく無く、あっさりとその権利を放棄していた。












「確かに、不可解な点が多過ぎるね」

 不安がるカイトを宥めすかして実家に戻った俺は、久々に家族団らんで夕食を囲んだ。
 週末以外の食事といえばコンビにかほか弁か、かなり微妙な自作の飯ばかりだったので、久しぶりに口にするおふくろの味は正直心に沁みた。別にお袋は、料理がとてつもなく美味いというわけではない。むしろその性格そのままを表したかのような、繊細さに欠けた、ひたすら豪快な料理といった方が正しい。トシさんやカイトの飯の方が丁寧だし十二分に美味いのだが、それでも幼い頃から慣れ親しんだ味には勝てなかったらしい。


 そんな感じで、おふくろの味をしっかりとかみ締めた後。

貰い物だというコーヒーを淹れ、それほど広くも無いリビングのソファに向かい合わせで座りながら、俺は今回の事を親父に話した。
 茶化すことも無く、最後まで軽く相槌を打ちながら指示かに聞いていた親父は、話し終えた後しばらく間を置くと、そう呟く。

「カイト君の存在は、父が開発部から直接引取った時点で公にされることは取り消された筈だ。もちろん試作品だから商品リストにも登録もされていないし、表向きの書類にも一切掲載はされていない。彼の存在は社内でも上層部の極一部の人間しか知らされていないし、まして祖父が引取ったことなんて…」

「でもコレって、絶対にカイトのことだよな?」

 メールが送られてくる度に、相手はカイトの具体的な特徴を挙げてきていて、身体的特徴はモチロン、男性型ということも、本来ボーカロイドには備わっていない青い翼の事も知っていた。
 コレでカイトじゃなければ、それこそ嘘になる。

「だろうね。一般に公開された世界初のボーカロイドは、女性型ということになっているし」

 祖父に半ば強引な形でカイトを引取られてしまった開発者達は、世界に公開するために改めてボーカロイドを開発した。その際、せっかくもう一体作るのならば、今度は女性型にしようということになったらしい。
そのため世間の常識では『初のボーカロイドは女性型』となっていて、真実を知る者は限られていた。

「少し、調べてみた方がイイかもしれないな。もしかしたら……今回の件は犯罪が関わっているかもしれない」

「え?」

「知り合いの刑事からの情報によると、最近希少価値の高いボーカロイドの盗難事件が多発しているらしいんだ」

 たとえば数量限定販売をされた機種や、特殊な機能を備えた機種、中には有名ブランドとのコラボ機種など、通常販売されたボーカロイド達とは一線を画したボーカロイドが、何者かに次々と盗まれているというのだ。

「!? っ」

 親父の言葉に、俺は思わず驚愕した。
 希少価値の高いボーカロイド……そんな事を言ったら幻の試作品ボーカロイドであるカイトなんて、その中でも筆頭に位置するじゃないか。
 驚きを隠せずに居ると、親父は深刻さを増した真剣な表情で続ける。

「今の所被害に合っているのは富裕層の人ばかりらしくて、表沙汰にはなっていないのだけれど……これ以上被害が拡大すれば、公開捜査も十分有り得る」




 つまり、それくらい頻繁に盗難事件が繰り返されているということで。




「それから、これはまだ確信出来ないらしいのだけれど……盗難にあった人達の話によると、皆一度は不可解なメールが届いているみたいなんだ」




 貴方が所有するボーカロイドを言い値で買い取りたい、と。




「!?   っっ」

「今回盗難に合った人達は皆、それを無視したり拒否した人ばかりのようだから…」

 もしかしたら、このメールの主も、ボーカロイド盗難事件の犯人と同一人物である可能性が高い。

「兄さんには、屋敷周辺と温室の警備を強化してもらうよう頼んでおこう。それからしばらくは、カイト君の元から出勤した方がいいね」





 そのほうがお前も安心だろうと微笑む親父は、ほやほやとした雰囲気とは裏腹に、とても頼もしくて。




 改めて父親の偉大さを感じた俺だった。











 こんな感じで始まります。
 前回とはちょと雰囲気が変わってシリアス気味ですが、テンション的にはおんなじかも(笑)






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