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久々に登場な獣医マスター話です。
今回はちょっと毛色が変わった感じ。
獣医マスターのトコのカイト君とは別のカイトが出てきます。

ちなみにKelvinとは『色温度』のことです。
よく蛍光灯とかに書いてある『3300k』のKのことで、『ケルビン』という単位です。
試しに検索してみると、意外に面白いですよ。


ではでは、気になった方は続きからどうぞ~






 須藤の馬鹿が帰宅途中にヘマやって右足を骨折し入院したということで、俺とカイトは見舞いのために、病院へとやってきた。
 何が悲しくて貴重な休みの日に、武骨な野郎の面を見に行かなきゃならんのだ。せめてカイトくらい見応えがあれば幾分気が紛れるのに、あの須藤ではどうやっても体育会系のむさい男臭しか漂わないではないか。
 そうは思っても、あんなむさい男でもうちの病院にとっては貴重な看護士だ。


 しかも、ウチの病院唯一の。


 須藤が急に入院なんぞしたおかげで、俺の仕事は診察から薬出しまでやる羽目になり、カイトも通常より多くの雑用をしなければならなくなっていて、毎日が大忙しだった。

「…お前、退院したら覚悟しとけよ」

 骨折以外の場所には全く怪我が無かった須藤は、ギブスで固定された右足を抜かせばいたって元気そうで、「あ、来てくれたんスね先生~」なんて、雑誌片手(しかも格闘技系…どこまで体育会系なんだコイツは)に暢気な声で俺達を出迎えた。日々忙しい毎日を送って若干やつれている俺達にしてみれば、胸糞悪いことこの上ない。
 八つ当たりでもしなければやっていられなかった。

「ゲッ!勘弁してくださいよ先生~今回の怪我は俺のせいじゃないんスから」

 あからさまに顔を引き攣らせる須藤に、俺はすこぶる笑顔で返す。

「煩い。お前がいないおかげで俺もカイトも毎日がてんてこ舞いだ。存分にこき使ってやるから、今のうちに暇とやらを満喫しておけ」

「……肝に銘じておきます」

 ベッドの上でガックリと肩を落とす須藤の姿に、少しだけ気分が晴れる。

「マスター、このお花どうしますか?」

 コイツに花なんぞイランと言ったのだが、お見舞いといえば花じゃないんですか?と(一体どこでそんな知識を得たのかさっぱり不明だが)カイトが言ったので、結果として見舞いの品はゼリー詰め合わせと花束のという定番セットとなった。
 俺としてはいっそ植木鉢でも持って来てやりたい所だったが、いつまでも病院に根付かれれば最終的に負担がかかるのは俺達なので、その衝動は寸での所で押さえ込んだ。
……花屋の前でうっかり椿の植木鉢に目が行ったのは、内緒だ。

「ああ、俺がやる。カイトはこの馬鹿の相手でもしていてくれ」

 あまり器用とは言えないカイトに慣れない事をやらせると、予想外の惨事を引き起こす場合があるのだ。カイトにもその自覚はあるらしく、抵抗することも無くあっさりと持っていた花束を俺に手渡した。

「はい、じゃあお願いしますね」

「……あの、俺の名前は『馬鹿』じゃないんスけど」

 ソコは否定してくれないんスか?…と呟く須藤に対し、俺は爽やかな笑顔を送った。

「必要ない」

「…と、マスターが言ってますので」

 俺の影響なのか、最近カイトの反応がちょっと俺に似てきたような気が……まぁいいか。特に困ることもないし。
 須藤の反論とカイトの辛辣ぶりを軽くスルーしつつ、俺は花束片手に病室を後にした。


















 ナースステーションで花瓶を借り、そこ水を入れて適当に花束を活けた俺が病室に戻るために廊下を歩いていると、ふと、何かが耳に届いた。


(歌声?……しかもこの声は…、)


 まるで導かれるように、俺は須藤の病室とはまったく違う方向から聞こえてくる声のする方へと、フラフラと歩いていく。
 普段の俺からすれば、凡そ考えられないような行動だが、どうしてもその声の主を確かめずにはいられなかった。

 そうして辿り着いた場所は、小児科病棟の一室、いわゆるプレイルームのような場所で。
 積み木や人形が散乱する部屋の奥、パジャマ姿の子供達に囲まれ、自らピアノを奏でながら童謡を歌っていたのは―――紛れもなく、カイトだった。



(カイト……?いや、)



 一瞬、須藤の元に置いてきたカイトが勝手に出歩いていたのかと思ったが、目の前にいるカイトは俺の所有するボーカロイドとは、纏う雰囲気が何処か異なっていて、すぐさまその可能性を否定する。
 第一、俺のカイトはピアノが弾けない。
 これまで何度か街中で他のボーカロイドを見かけることは合ったが、カイトと同機種のボーカロイドを目にするのは初めてだった。
 当たり前だが、カイトと同じ容姿、同じ声音。

しかし―――何かが違う。
 
 こちらがジッと見つめていることに気付いたのか、そのカイトは童謡を歌い終えると、音もなく立ち上がった。
 途端、周囲を囲んでいた子供達が『今日はもう終わり?』『もっと歌ってよカイトおにいちゃん』と口々に引き止め始める。
 どうやらこの病院では、あのカイトの存在はかなり定着しているようだ。

「ごめんなさい、そろそろお仕事の時間ですから。また明日、この時間に」

 俺のカイトよりも、落ち着いた丁寧な口調で話すそのカイト。
 縋りつく子供達一人一人の頭を柔らかな手付きで撫で、『きっとだよ!』と何度も確認する幼い声に、微笑みながら頷く。
 全てが同じ筈なのに、置かれた環境が違うだけで此処まで印象が変わるのか……そう、思わずにはいられないほど、目の前のカイトは俺のカイトとは何もかもが違っていた。

「私に御用ですか?」

 突然現れた不審者に動じることもなく訊ねるそのカイトは、明らかに他者との接触に慣れた様子で、かえって声を掛けられた俺の方が動揺してしまう。

「いや、歌声が聞こえたからつい……とても、綺麗な歌声だった」

 ていうか、俺じゃ絶対こんな風に歌わせてやることが出来ないと痛感させられるくらい、このカイトの歌は素晴らしいものだった。
 そう素直な気持ちを伝えると、目の前のカイトはとても嬉しそうに微笑み、ありがとうございますと礼を述べ、頭を下げる。
 そんなさり気ない仕草も、何処か気品が漂っているというか大人びているというか……ウチのカイトに見習わせてやりたいくらいだ。

「君のマスターは、この病院の関係者なのか?」

 あれだけ入院している子供達に認知されているということは、その可能性が高い。そう思って訊いたのだが、返ってきた答えは……俺が予想していたものとはまったく違っていた。
 俺の問いに、カイトは首を横に振る。

「いえ……確かに私の所有権はこの病院にありますが、私のマスターは……3年前に亡くなっております」




 三年前の冬、この病院で。




「!?   っ」

 あまりにも衝撃的な一言だった。
 二の句が告げられず息を詰める俺に、カイトは変わらず微笑みながら続ける。

「ですので、今の私にマスターと呼べる方はおりません。私の歌唱データも、亡くなったマスターに教えて頂いた三年前のままです」

 それはそうだろう。ボーカロイドに歌の調教が出来る権利を持つのは、マスターだけ。そのマスターが亡くなっているならば、新たに別の人物をマスターとして登録しない限り、そのボーカロイドが新たな歌を得ることは絶対に不可能だ。
 
 そこで、一つ疑問が浮かぶ。

「君は今、所有権はこの病院にあると言っていたね」

 規定として、ボーカロイドがマスターを失ったまま放置されることはまず無い。
 基本的にマスターを失ったボーカロイドは、製造会社に回収されるか、もしくは一度初期化し、新たにマスター登録をすることが義務付けされている。
 けれど彼は、マスターを失ってから三年が経過した今もマスターを持たないままでいるとは、一体どういうことなのか。
 俺の疑問は当然のことだと判っていたのか、カイトは問いに戸惑うことも無く口を開く。

「貴方が思ったとおり、私は例外のボーカロイドです。現在の私はボーカロイドではなく、介護ロイドの部類に属します」



 それはつまり、



「君は、カスタム化されているのか…」

 ロイドのカスタム化。
 通常は認められていないが、特例処置として本来の機能とは別の機能を搭載することは、一応可能とされている。
 だがそれはかなり特殊な例なので滅多なことでは認められることは無く、俺も実物を見たことは一度も無かったが、彼はその貴重なロイドの一人らしい。

「本来であればマスターを失った時点で私は製造元に回収され、初期化される予定だったのですが、私がマスターのご両親にお願いして、この病院で働けるよう、介護ロイドの機能を追加搭載して頂いたのです」



 そのため、この病院での私の役割は歌うことではなく、介護が中心です。



 躊躇いもなく、自分の存在をもうボーカロイドではないと否定する。
 過去の自分を捨て、新たな道を選ぶ……それは、人間でもそう容易くは出来ないことだ。

「何故……そんな願いを?」

 マスターを失ったボーカロイドは、心に酷く苦痛を伴う。
 喪失感、虚無感、そして自分が処分されるかもしれないという恐怖に、精神に以上を来たすボーカロイドも少なくない。
その不安を取り除いてやるために、マスターを失ったボーカロイドは一度初期化して新たなマスターを登録してやるか、もしくは製造会社が回収をするようになっているのだ。
 けれどこのカイトは、マスターの死を真正面から受け止め、昇華している―――普通ならば有り得ないことだ。
 驚きを隠せずにいると、目の前のカイトはくすりと笑い声を漏らした。

 とても柔らかな、まるで聖職者のような清らかな笑み。

「マスターとの思い出は、殆どがこの病院です。マスターはよくこの部屋で、私に歌を教えてくれました」
 
 病室はでこもかしこも白くて寂しいからと言って、この部屋に楽譜を持ち込んでは、細く小さな手でピアノを弾いて下さいました。
 プレイルームを振り返り、部屋の奥に置かれたアップライトピアノを懐かしそうに見つめる。その横顔はとても懐かしそうで、彼の中では今もマスターの存在が強く残っているのだと、感じた。

「マスターと過ごしたのはほんの二年ほどですが、私にとっては掛け替えの無い時間でした。それを無くしてしまうのはあまりにも惜しくて……幸い、マスターのご両親はそれなりに地位のあるお方でしたので、私の願いは叶えられました」

 多分、その子の両親としても、亡くなった自分の子供をそんなにも思ってくれているロイドを処分してしまうことなど、出来なかったのだろう。初期化され、その子との思い出さえも消されてしまうよりは、こうして自分の子供と同じような境遇の子供達のせめてもの助けになればと、思ったのかもしれない。
 とても純粋な、小さな子供のような一途な心を持ち続けるボーカロイド。
 彼らの本能は確かにプログラムされたものだけれど、だからこそ、その思いに嘘は無い。
 このカイトは、本当に心から自分のマスターを慕い、大事に思っている。




 こうして、失った今でも。




「……辛くは、ないかい?」

 不躾な質問だとは、わかっていた。
 でも、訊かずにはいられなかった。
 マスターを亡くしたボーカロイド。
 それは、この世に存在する全てのボーカロイド達が、いずれ経験するであろう未来だ。
基本ボーカロイドは、人間の寿命よりも格段に耐久年数が長い。キチンと定期的にメンテナンスさえすれば、確実に100年はもつと言われている。
つまり、マスター自らの意思でボーカロイドの所有権を破棄しない限り、ロイドはいつか『マスターを失う』のだ。
ボーカロイドにとって、マスターは全て―――初めからそうプログラムされている彼らがマスターを失った時、彼らはどう感じ、どう行動するのだろうか。

俺の残酷な問いに、カイトはそっと視線を落とし……けれどすぐに俺へと視線を上げると、ゆっくりと頭を振り。


「いいえ、私は幸せです」




 そして、笑う。







 ―――だって、マスターが私に残してくれた歌を、こうして皆さんにお届け出来るのですから。






 悲しみも絶望も……全てを乗り越えた微笑が、そこにはあった。





















「マスター、こんな所に居たんですか。いつまで経っても帰ってこないから、探しにきちゃいました」

 ててて、とカイトが小走りで駆け寄ってくる声と足音に、俺は緩慢に動かしていた足を止めた。


 見慣れた姿。
 見慣れた仕草。

 俺だけの、ボーカロイド『KAITO』


「迷ったんじゃないかって、須藤さんと二人で話してたんですよ。マスターに限ってそんなことある筈無いって思ったんですけ……っ、マスター?」

 俺の様子が可笑しいことに気付いたのか、カイトが下から俺の顔を覗き込む。
 無邪気な顔。
 俺を心から慕ってくれる、愛しい存在。
 
「わっ!ちょっ、ますたー?」

 たまらず目の前の身体を抱き締めると、俺の行動に驚いたのかカイトは腕の中でもがき始める。けれど一向に緩まる気配の無い腕の力に諦めたのか、抵抗を止めてすぐ傍にある俺の顔を見上げた。

「……マスター、どうしたんですか?」

 ココ、一応往来の場なんですけど。

 微妙に人通りが少ない階数なのか、周囲に人目は無い。
 けれど、たとえ誰かがいたとしても、俺はカイトを抱き締める事を躊躇わなかっただろう。
 俺はいつか、このカイトを残して死ぬ。
 それはどう足掻こうとも逃れられない未来で、確実にカイトの身に起こる現実。
 そうなった時、コイツは何を思うのだろうか。
 あのカイトのように、新たな未来を見つけ出すことが出来るのだろうか。
 願わくばそうなって欲しいが……この目で確認出来ないことが、悔やまれてならない。





 だから、せめて。






「――愛してる、カイト」

 俺が生きている間は、俺がカイトを愛している事を、ちゃんと告げよう。
 未来は誰にもわからない。
 もしかしたら今この瞬間、命を落とすかもしれない。
 そうなっても後悔しないよう、俺は言葉にして、態度にして、お前に告げよう。





 お前が俺を失った後も、『生きて』行けるように。







「本当に愛してるからな、カイト」

 何故俺が突然こんな告白を繰り返しているのかまったくわからないといった表情を浮かべながらも、カイトは腕の中で嬉しそうに笑う。
 頬を染め、何度も頷き、その唇で愛を紡ぐ。

「えと……ハイ、俺も『愛して』ます。マスター」







―――その純粋な笑顔が、失われないために…





                                            2009.02.06 AK





今回の話は、『イフボット』をテーマにして書いてみました。
イフボットはもともと幼児用に開発された玩具用会話ロボットです(なんと歌まで歌うのですよこの子!)ですが、ある少年がきっかけで、最近は高齢者向けの介護ロボットとしても活用できるよう改良されたとのことです。
 それを知った時、もう頭の中で妄想が暴走して…これは兄さんで書くしかっ!!!と思ったわけでして……もう駄目だコイツorz

 何故今回獣医マスターを出したかと言いますと、なんとなくこの人が一番冷静に、かつ深くこの話を盛り上げてくれるかなぁと思ったからです。常に命と向き合った仕事をしてますしね。あと、最近ポロポロと『獣医マスターのお話待ってますから』というお声を頂いていたので、それも考慮してみました(爆)
ハハハ、久々に書いた獣医マスターは楽しかったです。

ちなみに今回出てきた介護機能を搭載しているカイト兄さんの過去話もちゃんと考えておりますので(むしろソッチが先だった)、気が向いた時にでも書こうと思ってます。
…既にラストがわかっているので、微妙かしら(汗)

まぁ予定は未定ってことで。。。。




参考サイト
[イフボットWikipedia]
[イフボットYou Tube]
翔太とイフボット―単行本→









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