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獣医マスターです。
没原稿救済マスカイSS。

単にもったいなかったからリサイクルしたなんて言わない←言ってる






「マスター、朝ですよー?」

 いつもの時間、午前6時20分。

 寝起きの良いマスターは、普段ならば最初の呼び掛けで直ぐに目覚める。


 ……のだけれど、今日は三度呼び掛けても揺すっても目を覚まさなかった。


 理由はわかってる。
 マスターは昨日、動物病院の業務後に別の動物病院から急遽応援を頼まれて、自宅に帰ってきたのはほんの三時間程前なのだ。だから疲れてるのは当然だし、明らかに睡眠時間が足りないから、何度呼んでも起きてくれないのは全然おかしいことじゃない。
 でも今日は休業日じゃないから、マスターどがんなにお疲れでも起こさないわけにはいかなかった。あまり無理はして欲しくないし本当は休んでほしいのだけど、多分マスターはそれを由としない。
 面倒くさがり屋な面はあるけれど、基本的に真面目なのだ、この人は。
 そんなわけで、オレは心を鬼にしてマスターを起こす。そのために早起きして、朝から苦手な料理をして朝ご飯を作ったのだ。
 もっとも、家事が苦手なオレは大した物は作れないから、適当に切って煮込んで塩と胡椒で味付けしただけの野菜スープと、目玉焼きに成りそこねたスクランブルエッグもどき、後は焼くだけの食パンを用意した。
 スープもスクランブルエッグもどきも、ちゃんと味見したから大丈夫。食べられる。


「マスター朝ですよ。さっさとシャワー浴びて、朝御飯食べてください」

「……、」

 ピクッと、ちょっとだけマスターが反応するが、まだ起きる様子はない。
 むぅ…なかなかに手強いなあ。

 でも、あまり手荒な真似はしたくないし……と、それから耳元で呼ぶこと三回。



 結果は惨敗。



 既に起こし始めてから15分が経過している。
 後一時間以内に用意して家を出なければ、診察時間に間に合わない。
 病院の鍵は須藤さんもスペアキーを持っているから、最悪遅刻しても受付とお薬渡しだけなら可能だけれど、診察はマスターじゃないと出来ない。

 さて、困った。
 目前には、今も枕に顔を埋めて静かな寝息を立てているマスターの寝顔。
閉じられた目の下にうっすらと熊が出来ているのが痛々しくて、グラリとオレの良心が揺らぐ。

 ダメダメ!起こさないと後悔するのはマスターなんだから!

 揺らぐ心を振り切るように、フルフルと頭を左右に振って、オレは新たな策を練る。
 ただ呼び掛けるだけじゃ今のマスターには通用しないのは試し済みだし、ちょっと身体を揺らしてみるのも駄目。
 後は頬っぺた抓ってみるとか叩いてみるとか、どうしても手荒な手段しか思いつかなくて、オレは頭を抱えてしまった。



「……あ、もしかしたらアレなら上手くいくかも」



 少し前に見た昼ドラマの中で、若奥様が使っていた台詞。
 あれは演技だけど、試す価値はあるかもしれない。
 現にドラマの中だとちゃんと旦那様は起きてたし。





 えーと、確か……




「マ、マスター…、今すぐ起きてくれたらオレから目覚めのチュウしてあげますから、起・き・て?」



 ――て、く、口にしてから気付いたけど、こ、この台詞って結構いやかなり恥ずかしいっっ!?…ていうか、え?もしかしてこれで本当に起きちゃったら、オレからキスしなきゃいけないんじゃ……




 と、そこまで心の中で叫んだところで、マスターが物凄い勢いで起き上がった。







「………、」




「っ  、」





 手も使わず素晴らしい腹筋で起き上がったマスターは、頭を掻きながらボーっとした表情でオレの顔を見つめる。どうやらまだちゃんと覚醒はしていないらしい。
 一方のオレはというと、突然起き上がったマスターに驚きながらも、『もしかしたら今の台詞には気付いてないかもっっっ』とか一抹の望みみたいなことを胸中で叫んでいたのだけれど……



「……起きたぞ」

「へ?」

「だから……起きた」



 今すぐ起きたら、お前から目覚めのチュウくれるんだろ?




「……あの、マスター。そんな寝ぼけながらも目だけはマジな感じでチュウとか言わないでください」

 あまりにも衝撃的なマスターの一言に、一瞬思考が停止し掛けた。

 確かに最初に言っちゃったのはオレですが、マスターの口から改めて聞くと凄く恥ずかしいというか、 マスターが言うと似合わな過ぎて、恥ずかしさが倍増する。

 けれど寝ぼけ半分なマスターは、そんな俺のささやかな主張なんてまったく聞く気は無いらしく。

「……イイから、早く」



 目覚めのチュウ。



「で、でももう起きてるじゃないですかっ」

「じゃあ寝る」

 そういってそのまま身体を倒そうとするマスターに、オレは慌てて縋り付く。

「わああああああっっ!駄目です!もうあまり時間無いんですからぁぁぁぁっっ!!」

 シャワーもご飯も諦めればまだ十分間に合うけれど、出来ればちゃんと目を覚まして栄養取ってから仕事をして欲しい。
 せ、せっかく頑張って作った朝ごはんも、マスターに食べて欲しいし。

「じゃあ、チュウ…」

「……ますたー、なんか性格変わってませんか?」


 どちらかというとそういう台詞は、マスターの弟さんが言いそうなんですが。


 いろんな意味で泣けてきて、つい涙目で訴えてみると、マスターは一瞬だけ視線を虚空に向けてから再び俺に戻し、一言。

「……いや、お前から貰うキスなんて、早々無いし」



 せっかくのチャンスだし、貰えるものは貰っとこうかなぁと。



「……ええと、そんなに貴重ですかオレからのキスって?」

 確かに記憶では俺からっていうのは殆ど無いけれど、それほどマスターは拘っていないようだから、それに対して気にしたことなんて今まで一度も無かったのだけれど。

「ウン。」



 ウンって!
 絶対マスターキャラ変わってますってっっ!!!!



「くれないのか?」




 俺、眠いの無理矢理振り切って起きたんだけど。




「!?  っ」


 まさかマスターに縋るような目で見られる日が来るなんて思いもしなくて、馬鹿みたいに激しく動揺してしまったオレが。






 勇気を振り絞ってマスターに『目覚めのチュウ』をするまで、あと一分。








 どうやらマスターは普通におきているように見えて実は寝ぼけている人だったらしいよ?



 ……あたしじゃん←普通に起きているようで物凄く寝ぼけている人






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