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当初の予定ではこっちがスパコミ発行の予定でしたが、なんかテンションが上がらずそのままお蔵入り(笑)
でもなんか勿体無いのでWEB用に書き直したらとっても短くなりました←何故っ!?

多分、あまりにも大したこと無い話だったからじゃないかなーと今なら判る。
これ、発行しなくて良かった。。。orz








「マスター!」

「あ?」

 ドタドタドタ、バン!と盛大な音を立ててリビングに現れた、俺が所有するボーカロイド兼恋人であるカイトは、開口一番こうのたまいやがった。


「ピクニックしましょう!!」


 一体どこの幼稚園児だ、お前は。










                たとえばこんな晴れた日には…











「…とか言いながら、結局連れてきちまう俺って死ぬほど甘いよな」

 自分のボーカロイドの突飛な言動に振り回されること、過去数回。
 流石に『埼玉に引っ越しましょう!』とか『ニュージーランドに永住しましょう!!』なんて、目的があからさま過ぎて目も当てられないものに関しては即行却下したが、どうも俺はカイトの願いは極力叶えてやりたくなってしまうらしい。
 それもこれも、カイトが可愛い過ぎるのが悪い。


 てなわけで。
 朝から頗る快晴、雲一つ無い青空の下で。
 俺とカイトは、弁当を持って(カイト曰く)ピクニックにやってきていた。




「普通こういう場合、発案者のお前が弁当を作るのがセオリーじゃないか?」

「材料が勿体無いじゃないですか」

 スパッとハッキリ大真面目。間髪入れずに即答してくるあたり、コイツは自分に料理センスが備わっていないことを重々承知しているらしく、俺とてそれは骨身に染みるほどよく判っている(なんせキッチン半壊させたこともあるので)のだが、三十路間近の男が早起きして二段弁当を作成するという、旗から見たら薄ら寒いことこの上ないことをやってのけてしまった自分に泣きたくなる。
 ちなみに、俺達がいるのはそんな公園の一角。
 目の前には巨大な人工の池があり、その周囲にはジョギングコースと、絶妙な感覚で遊具とベンチが設置されていて、ちらほらと人影は見えるがうっと惜しくは感じない。
そんな長閑な風景の一角にある、大きなプラタナスの樹の下。程よく日光を遮られた絶好のピクニックスペースに黄色のシートを敷き、俺が五時起きで作った二段お重弁当を広げていた。
 詰めたおかず類はから揚げ・ハンバーグ・甘い玉子焼きなど定番の物ばかり。おにぎりは鮭・おかか・梅干の三種類。サンドウィッチは玉子ときゅうり、シーチキントマト、ブルーベリージャム。俺用のつまみに、枝豆を茹でたやつ。それと、クーラーボックスにはビールとドライアイス込みのダッツ(しかもドルチェ)が入っている。
 これら全て用意をしたのは他でもない俺で、カイトがやった事といえば茹で玉子を作ったことと、水筒に茶を入れただけ。
 不平等だと不服を唱えても文句は言えまい。

「せめておにぎりくらい握ってくれても罰は当たらんと思うんだが…」

「幾何学模様的なおにぎりは、絶対食べる気が失せますよー」

 どうせ食べるなら、三角か丸のおにぎりの方がいいです。
 パクリ、と鮭が入ったおにぎりに齧り付きながら悪びれた様子もなく答えるカイトに、俺はがっくりと項垂れる。
 そうだった。コイツはおにぎりすら三角に握れない…というか、寧ろどうして己の手だけを使っているのに、解析不能な形のおにぎりが作成できるのかと問い質したくなるような、かなり独創的なおにぎりを作り出す名手なのだ。フライパン持たせれば焦がすし、包丁持たせれば自分の手を削ぎそうになるし、鍋を持たせれば必ず零すし……本当にどこのドジッコだお前は。今時そんなキャラ、アニメでも早々存在しないぞ。
 そんな不器用なカイトが出来ることといえば、辛うじてお茶を淹れることと、半熟玉子のタイミングを計ることだけ。前半はともかく後半のは一体なんだと疑問を抱く方が大多数かと思うが、何故かカイトは半熟玉子のタイミングを計るのが物凄く上手い。水を張った鍋に玉子を投入して火にかけるだけなのだから失敗しようが無いと思うかもしれないが、固ゆでと違って絶妙な半熟玉子の作成は、なかなかに難しい。だがカイトが作ると、時間を計ってなくても火加減を毎回変えようとも、必ず丁度イイ茹で加減を見極めることが出来るのだ。おかげで我が家のゆで卵は、いつだって最高の半熟状態で食卓に並ぶ。唯一の欠点は、いざ固ゆで玉子を作ろうとしても半熟になってしまうことだ。かなりどうでもいいが。

「せっかく天気のイイお外で食べるんですから、どうせなら美味しい物が食べたいです」

 マスターの玉子焼き、今日もすごく美味しいです。
 そういって満面の笑みを浮かべながら、拙い箸捌きで取った好物の玉子焼きに齧り付く。
 少しの出汁と、牛乳と砂糖が入った甘い玉子焼きはカイトの好物で、でも何故か俺が作ったもの以外は心から美味しいと言わない。どうやら美味しいとは感じているものの、俺のを食べたほどにはどうしても思えないらしく、以前何気なく理由を聞いたら『何ででしょう?』と本人も首を傾げていたので、理由は未だに不明だった。 


――口が滑っても『愛のスパイス』なんて、クサイ台詞は言わない。


「…お世辞言ったって、何も出ねぇぞ」

「もう十分出してもらっているのでいらないです。あ、でもダッツは別ですー」

 やっぱりデザートはアイスですよね~
 玉子焼きを租借しながらアイスへの思いを訥々と語り出すカイトに、俺は静かに溜息を吐いた。

「………。」

 どんなに早起きをしても、丹精込めて弁当作りに励んでも、アイスだけは別腹で別格らしい。
 なんとなく悔しいと思ってしまうのは、きっと俺がコイツのことを恋愛的な意味で好きだからだろう。
 面白くない気持ちを洗い流すように、缶ビールの中身を勢い良く喉奥へと流し込む。暖かな春の日差しと風に当たりながら飲むビールは思った以上に美味くて、燻っていたモヤモヤ感が一瞬にして四散した。
たまにはこうして、花見以外でのんびりと外で飲むのも、いいかもしれない。

「マスター、あんまり飲みすぎないで下さいね?」

 あっという間に一本目を飲み尽くし、二本目に手を伸ばした俺に、すかさずカイトが窘める。

「酔うほど持ってきてねぇよ。今日は電車で来てるんだし、あんまり固いコト言うな」

「オレじゃマスターを運べないから言ってるんですー」

 体格は俺とさほど変わらないのだが、カイトは見掛け以上にひ弱だ。
 歌うために作られたアンドロイドだからなのか、腕力は成人男子の平均値よりもちょっと劣る。そのため俺が倒れたりしたら、カイト一人では絶対に運べない。
 時々昔馴染みの友人と飲む機会もあるが、そういえばカイトが来てから立てなくなるほど飲んだコトは一度も無かった。
 それだけ、コイツといる毎日が充実している証拠なのだろう。
 ドジで不器用だが、何事にも一生懸命で笑顔が頗る可愛くて健気で、毎日見ていても飽きない。

「そういやカイト」

「なんでふか?」

 程なくして弁当を食べ終え、デザートのアイスに取り掛かりながら空を見上げていたカイトに声を掛けると、青空よりも深い蒼がまっすぐ俺を映す。

「久々に何の予定も無い休みの日に、わざわざ弁当作らせてまで外に連れ出したのは一体どうしてだ?」

「んー別に大した理由はないです。ただ、」

 銜えていたスプーンを取り、くるりと一瞬視線をさ迷わせてから再び俺に戻し、ニコリと笑う。

「ただ?」

「せっかく気持ちの良いお天気なので、自然の中で美味しいもの食べたら元気になるかと思いまして」

 だってマスター、最近凄くお疲れだったでしょう?

 言われて、ドキリとする。
 ここ最近、他の動物病院に助っ人に出たり急患があったり講習会に参加したりしていて、休日もロクに休めない日が続いていた。朝早くから夜遅くまで働き詰めの毎日で、正直身体は心底疲れていた。だからこそ久しぶりに何も無い今日は、一日ゆっくりと身体を休めようと思っていたのだ。
 まぁ、その目論見はあっという間に砕かれ、現在のような状況になっているのだが。

「マスターがお疲れというのは判っていましたが、だからといって一日中家の中でゴロゴロしているのはあまり健康に良くないですし、だったらと思いまして」

 本音を言うと、俺がマスターと一緒にピクニックしてみたかったって気持ちもあったんですけどね、と苦笑しながら小さく舌を出す。

「………。」

 確かに弁当作りや準備はそれなりに大変だったが、こうして穏やかな日差しに包まれて、何をするでもなくのんびりとした時間を過ごすことに嫌な気分はしなかった。
 それどころかいつの間にか溜まりに溜まっていたストレスも、此処に来たことによって、随分浄化されたような気がする。
 特別なことは何もしていない。
 弁当を作って電車に揺られて、緑に囲まれた場所でのんびりと昼食を食べただけ。
 だがそれだけでも、忙殺された日々を送る羽目になっていた俺にとっては、十分休息を得られる時間だった。
 なにより、こんな風にカイトと二人だけでゆっくりとした時間を過ごすこと自体、数週間ぶりだったのだから。

「―――――っ、」

 そこまで考えて、気付く。
 ここ数週間。毎日の忙しさにかまけて、カイトを放っておいてしまっていたことに。
 一緒に住んでいるのだから当然顔は毎日合わせているし、受付を頼んでいるため職場に連れて行っている。
 だが、カイトは作業用ロイドではなく、れっきとしたボーカロイドなのだ。
 ボーカロイドは歌うために作られたアンドロイド。それなのに俺は、ここ数週間、一度もカイトに歌わせることをしなかった。
基本的に調教は仕事が休みの日か、もしくは時間に余裕がある平日の夜に少しだけ。しかも音楽なんて学生時代に友達とバンドを組んだくらいで大した知識も腕もないため、そのペースは酷くゆっくりで、一曲終わらせるだけでも二週間以上かかった。それでもカイトは調教をする度に嬉しそうに笑っては、覚えたての歌を口ずさんでいたのだ。
ボーカロイドにとって、歌を与えられることが一番の喜び。
コイツは若干規格外なのか、歌以外に食べることも寝ることも好きだけど、でもやっぱり『歌』だけは別格なのだ。


それなのに俺は……


「マスター」

 思考の深みに嵌り掛けていた俺を、柔らかな声が引き戻す。
 視線を向けると、少し困ったような顔があって。

「気にしないで下さい。マスターが忙しかったのは、オレが一番わかっていますから」

 俺が何を考えていたのか気付いていたのか、そう告げるカイトに、俺はゆるりと首を振る。

「『忙しい』は理由にならないだろ。お前達にとって、歌は一番重要なことだ」

「それは、確かにそうですけど……でも別にオレ、辛いとは思いませんでしたよ?マスターは好きな時に歌って良いって言ってくれましたから、新しい歌は覚えられなくても十分好きに歌ってましたし」

 カイトはよく病院内で歌っている。
 それは人に怯えて治療が出来ない動物を落ち着かせるためだったり、時にはカイトを知る患者の飼い主に歌ってくれとせがまれたりと理由はその時によってまちまちだが、カイトに受付を任せてから、その歌声が響かない日は一日も無かった。

「皆さんも聞いて下さいますし、オレはそれだけでも十分嬉しいです」

「でも、やっぱり新しい歌は覚えたいだろう?」

「もちろんそれは覚えたいですけど……そのためにマスターが無理をするのは嫌です」

 はっきりキッパリ。何の迷いも無くそう言ってのけるカイトに、逆に俺の方が気圧されてしまう。

「確かにボーカロイドにとって歌は至上の喜び。そのために作られたんですから、それは当たり前です。ですが、それと同じくらい……いいえそれ以上に、オレはマスターが大好きなんです」

 マスターの傍に居られるだけで幸せ。

 マスターと一緒に喜びを分かち合える毎日が重要なのだと笑うカイトに、どうしようもないくらい愛しさが湧き上がる。


 今すぐ抱き締めてキスしたい。


 その衝動に抗う理由何処にも無いので、俺は突き動かされるままに目の前のカイトを抱き寄せ、口端にアイスが付着した可愛らしい唇にキスをした。


 途端に広がる、アイスの味。
 甘いカイトの味。


「!?   っっ」

 まさか俺が突拍子もなくそんな行為に走るとは思いもしていなかったのか、持っていたスプーンをポトリと落として両目を見開いて驚くカイトに、喉奥で笑う。
もしかしたら誰かに見られていたかもしれないが、そんなことなどお構い無しだ。見られたところでソイツに再び会う確立なんて、限りなくゼロなのだから。

「ま、まままますたーっっ!?」

「ん?」

 散々甘い唇を堪能して、とりあえず満足したので抱き締めた身体を開放してやると、カイトは頬を真っ赤に染めながら動揺も露に至近距離で叫んだ。

「な、何ですか突然!しかもこんなところでっ」

「別に、したかったから」

 急にお前が愛しくてならなくなったからしただけだと恥かしげも無く返すと、ますます顔を赤くするカイト。なんか湯気まで出そうだなオイ。

「そ、外ですよココ!しかも昼間の公園っ」

「そうだな。公園だな」

「ま、周りには人だっているのにっ」

「…お前が騒がなきゃ誰も気にしねーと思うんだけど?」

 多分キスした時より注目集めてるぞ今、と指摘してやると、カイトは慌てて周囲を見回す。
 案の上周囲にはちらほらと人がおり、その何人かはさり気なくとはとても言えないくらいしっかりと俺達の方を見ていて、カイトと目が合った途端、あからさまに目を逸らした。
 ん、まぁ気になるよな。俺でもきっと見ちまう。

「ま、ますたぁぁどうしましょぅ~」

 オロオロと狼狽するカイトの頭を、乱暴な手つきで撫でる。フワフワとした柔らかな髪の感触は、まるで大きな犬のようだ。

「どうしましょうって、別にどうもしねーだろ。単にいちゃついてただけで、公然でやってるわけでもあるまいし」

 公共の場でキスしたくらいでいちいち逮捕されてたら、世界中逮捕者だらけだ。

「!?  っっ」

 俺の歯に衣着せぬ物言いに本気で茹蛸と化したカイトに、俺は苦笑しながら食べかけのアイスを手に取り、別のスプーンを取り出してカイトの口に運ぶ。どんな時でもアイスにだけは反応するのか、反射的にパカリと開いた口にすかさずアイスを入れてやると、なんとも幸せそうな笑顔を浮かべた。

「美味いか?」

「ハイ♪」

 さっきまで恥かしがっていたお前は一体何処行った?と訊きたくなるくらいの変わり身の速さで、満面の笑顔を見せるカイト。
 まぁ、そんな単純なところもお前らしくて好きだけどさ。
 もの欲しそうに残りのアイスを見つめるカイトにそれを渡して、再び空を見上げながらビールを呷る。
 今日は晴天、風も穏やか。
 日差しもそんなに強くなくて、気温もちょうどいい。
ピクニックにはもってこいの日和。

「カイト」

「ハイ、なんですか?」

 アイスを食べ終え、律儀にゴミを纏めているカイトに声を掛ける。
 向けられるのは柔らかな、春の日差しのような笑顔。

「また、来ような」

 朝は少々辛いが、またこうして弁当作って電車を乗り継いで。
 人がまばらな公園で、何をするでも無くのんびりと過ごす。
 もちろん、お前と一緒に。



 そう告げると、カイトは瞬きを二回ほどしてから嬉しそうに『ハイ』と頷いた。



2009.05.06 AK







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