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例の楽園で書き逃げした第一弾。
お引越ししたのでこちらに格納することに(笑)
イチゼロが苦手な方は開かないようにお願いします。


といっても、あんまり×要素無いんだけどね(むしろ無いに等しい)



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   林檎の果実

 


「あああああ~~~!またご飯食べないでそんなの食べてる!」


 そんなイチの声に、ソファの影で一人エネルギー摂取をしていた僕は、胸中で溜息を零した。


 僕達ボーカロイドは人間でいう『バランスの取れた食事』を摂取する必要が無い。
パソコン内に戻れば自動的に充電されるし、口から取り入れた食物は体内で分解され、欠片も残さず全てエネルギーとして変換されるからだ。
 けれどゼロにとって食事は単なる『エネルギー摂取』では無いらしく、こうして適当な物でエネルギーを補充していると、必ずと言って良いほど眉を吊り上げて僕を怒った。

「何度も言ってるだろ!お腹空いたならちゃんと俺に言ってって」

 食事というものに興味が無い僕と違い、イチは食事自体に楽しみを持っている。
 おそらく最初にそうマスターから教え込まれたからだろうけれど、それにしたってちょっと過剰過ぎる反応では無いかと思う。
 最初のうちは食べることだけ。けれど月日が経過するにつれ、イチは食べることだけではなく作ること自体にも興味を持ち始め、経験を積み重ねた今では、この家の食事は全てイチが作っていた。
 イチの作る食事は美味しいと思う。
 僕好みの薄味で、彩りもカラフルでイチらしい。
 けれど正直、『食事』という行為自体があまり好きでは無い僕にとって、日に三度も繰り返されるそれは拷問以外の何物でもなかった。

「別に良い。コレで」
 
 ほんの一時間前までマスターに調整をしてもらっていて、エネルギーを消費していたから手近にあったものを摂取して補っただけのことで、腹が空いたわけじゃない。
 そう告げながら、手の中の林檎に歯を立てる。
 カシュ、という音と共に口内に広がる甘酸っぱい味。
 一つ食べれば、少なくとも明日の朝までは十分過ぎるほどのエネルギーが充電出来る。
 だが、やはりイチには納得してもらえなかったようで。
 
「もー!ゼロは良くても俺が嫌なの!せっかくマスターと三人で夕飯食べようと思って頑張ったのにぃ」

 そう言ってプクッと頬を膨らませるゼロに、ほんの少しだけ罪悪感が生まれる。

「……ゴメン」

 食べたくないのは本当。
 朝や昼に軽くならばまだいい。
 けれど夜は、必ずと言って良いほどボリュームの多いメニューばかりが出るから、出来ることなら食べたくない。
 だからと言ってイチを傷つけたかったわけでは無いから、素直に謝罪の言葉を口にすれば、今度は困った顔をされた後、大きく溜息を吐かれた。

「…そんな顔されたら、僕これ以上怒れないよ」

 困った表情のままそんなコトを言われ、何故イチがそう思うのかわからなくて首を傾げれば、今度は両手を広げてギュッと抱き締められた。


 服越しに感じる、あたたかなイチの体温。
 顔も身体も同じもので出来ているけれど、僕達は微妙に異なった存在で。

 素直で可愛いイチ。
 無口で感情表現の下手な僕。

 同じKAITOには変わり無いのに、何でこんなにも性格が違うのだろうと疑問に思わなかったわけじゃないけれど、時折、素直なイチが羨ましいと思うこともある。

 けれどそんな時、決まってイチは僕を抱き締めて『大好き』と何度も口にする。


『大好きだよ、俺はそのままのゼロが大好き』


 だからずーっと一緒にいようね、と、まるで太陽の花みたいに笑ってくれる。
 そんなイチの笑顔が、俺は大好きで。
 感情を表情に乗せるのは苦手だけれど、精一杯の笑顔を浮かべてイチに『僕もイチが好きだよ』と返す。
 消えそうなほど小さな声音で、でも、それだけでもイチは喜んでくれた。

 イチを困らせたくは無い。
 イチを怒らせたい訳でもない。

 でもやっぱり、いつまで経っても食事は苦手で。
 

 だんだんと気が滅入りそうになっていく僕に、イチの優しい声音が降りてくる。

「ゼロがご飯食べるの苦手だってことも、素直に感情表現出来ないってことも俺はちゃんとわかってる」
「……。」

「でもさ、やっぱり僕はゼロとマスターと三人でご飯食べたり、たくさんお話したりしたいよ。だって食事の時間ってさ、食べるだけが目的じゃないでしょ?」

 自分だけじゃない誰かと一緒にご飯を囲んで食べることが、一番の目的だと思うんだ。

 言いながらゆっくりと背中を撫でるイチの手の平を感じながら、僕は小さく頷く。

「………ウ、ン 」

 イチは、本当に優しい。
 特に僕には、無条件で優しい。

 歌うことしか出来ない不器用な僕をフォローしてくれて、何も言えない僕の全部をわかってくれて。
 本当に、イチには返せないくらいの愛をもらってる。


「だからさ、ちょっとだけでも良いから俺達と一緒に食事しよう?全部食べろなんて言わないから」

 あ、でも一応努力はしてね?


 抱き締める腕を解き、ピッと指を立てながら柔らかく、けれど締めるところはしっかりと締めようとするイチに。


「ん……わかった」


 僕は、出来る限り精一杯の笑顔を向けた。






            2009.05.04 







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