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イチゼロSS第二弾。
楽園が以下略。




お嫌いな方は開かないようにお願いします。
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※イチゼロSSほのぼのです。



【我が家のイチゼロ設定】
■ゼロ……無口無愛想無表情でご飯嫌いな子猫ちゃん
■イチ……社交性ピカイチの性格無邪気な子犬ちゃん






       -I・cy- 





 食物を食べるのは苦手。
 でも、これは好き。

 舌で転がすとカラコロと小さな音を立て、ジワリと溶けていくそれは無味無臭。
 口内で固形から液体に変化したそれを嚥下すれば、胃の辺りがヒヤリと感じる。
 取り込んだそれに、エネルギー要素は欠片も無い。
 けれど喉を潤し、身体を維持するには必要不可欠なもの。
 


 『氷』と呼ばれるそれが、僕は好きだった。





 いつものように、マスターから調教を受けた後。
 毛足の長い絨毯の上に直接座り、リビングソファに寄り掛かりながらカラコロと氷を舌で転がしていると、最近お気に入りらしいココアを満たしたマグカップを持ったイチが、そっと僕の顔を背後から覗き込んできた。

「ゼロ、また氷食べてるの?」

 口に氷を含んでいるので返事の代わりに頷けば、ムゥと不満げに寄せられる眉に苦笑が浮かぶ。

「味なんて無いのに、美味しい?」

 再び頷けば、更に眉間に皺が寄る。
 あんまりそうしてると皺が取れなくなるぞと声を掛けたかったけれど、口に入れた氷はまだ大きくて、例え声は出せても不明瞭な「音」にしかなりそうに無かった。

 僕はあまり、食事を好まない。
 というより、かなり苦手。
 僕達は人間に比べればエネルギー効率はかなり良く作られているけれど、稼動し続けるために食物の摂取は必要不可欠で、だから仕方なく最低限の量は口にするようにしているけれど、何度繰り返しても慣れることが出来ない。
 でもイチは食べることが好きで、最近は色んな味のする料理を口にすることに喜びを感じていて、その『スキ』を僕も共有して欲しいと願っている。
 だから、僕がこうして何の味もしない氷を好んでいることを、あまり好ましく思っていないのだ。

「せめて削ってカキ氷用のシロップでも掛けて食べればいいのに」

 同じ氷ならかき氷にした方がずっと美味しいのに。アイスだし。
 両手でマグカップを持ち、ホットココアの水面をゆっくりと回しながら呟くイチに、ようやくある程度まで溶かし終えた僕は、ゆっくりと口を開く。

「下の上で氷のカケラを転がしながら溶かすのが好きなんだ。削ったらつまらない。それに、」

「それに?」

「……水だってちゃんと、味がある、ぞ」

 多分。

 そんな、自信も持てない、かなり曖昧な言葉だったのだけれど、イチの興味を煽るのには十分だったらしい。

「そうなの?」

 同じ顔の筈なのに、なんだか僕よりも少しだけ大きく感じる青い瞳を更に大きく開かせ、僕に向かって身を乗り出す。
 
「ただの水なのに、味があるの?どんな??」

 チャプン、と位置の動きに合わせてココアが跳ねる。
 普段からイチは好奇心が旺盛だ。
 知らないことはどんどん知りたがるし、少しでも疑問に思ったら解明するまで追及しようとする。
 僕の不用意な発言は、そんなイチの好奇心を著しく擽ってしまったらしい。

「ねえゼロ、教えて?ゼロの好きな氷の味って、どんな味?」

 持っていたマグカップをソファテーブルに置き、更に身を乗り出したイチの手が、僕の肩に置かれる。
 そのまま後ろに引かれ、自然とソファの肘掛部分に頭を乗せるような形になると、イチは真上から僕を見下ろし、笑う。
 可愛らしい笑顔。
 僕には到底出来そうに無い笑顔。
 でもイチは、僕の笑顔が好きだと言う。
 今まで笑えた自覚なんて、殆ど無いのに。

「ゼロ、教えて?」

 根元は同じ声音なのに、イチから発せられた声は歌うように―――優しく僕を誘う。
 そして僕は、そんなイチの言葉に誘われるかのように、口を開く。

「………あま、い。多分、だけど」

「甘いの?水なのに」

「ん、甘い……気のせい、かも…しれないけれど」

 自信は無かった。
 イチに比べればずっと味覚の鈍い自分が、イチがわからない味覚を感じられるわけが無い。
 でも、本当に時折だけれど。
 口に含んだ氷が舌の上で溶けた時、微かに『甘い』と感じることがあったのだ。
 ただの気のせいだったのかも、しれないけれど。



 でも、イチは。



「そっかぁ!ゼロがそういうのならきっと、水って本当は甘いんだね!」


 僕の言葉を、カケラも疑っていないイチの反応。
 まるで自分のことように、心から嬉しそうにお日様の笑顔を浮かべる、もう一人の僕。
 
「凄いねぇゼロ。水の味がわかるなんて、実は僕なんかよりずっと味覚が鋭いんじゃないかな?」

 もしかしてこれから美味しいものたっっっくさん食べたら、マスターもびっくりするくらいのグルメさんになれるかもね?

「………それは暗に、僕にちゃんとしたもの食べろって言ってる?」

「やだなぁゼロ、そんなこと無いよ」

 せめて今よりもうちょっと食べてくれたら嬉しいなぁ~とは、日々思ってるけどね♪


「…………。」

 何故だろう。
 浮かべるゼロの笑顔はとっても可愛いのに、背中に黒い羽根が見える気がする。
 出来れば気のせいであって欲しいな、と思いつつ、僕は夕飯に出されるであろう、いつもよりも気持ち多めの食事量を予想して、そっと息を吐いたのだった。






 ほんの少しだけ、くすぐったい気持ちも抱えながら……






                   2009.09.20 AK






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