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 突発マスカイです。

 続きを書くかどうかは、アナタ次第 








   裁縫師と歌謡人形






 僕のマスターは不思議な人だ。
 
 マスターの元に来て一週間、マスターに僕が最初に抱いた印象が、それ。




 僕のマスターは、広いお家に独りで住んでいる。
 ちょっと古めの、でもとっても立派なお家。
 他にご家族の方はいなくて、詳しいことはわからないけれど、マスターは『みんな死んじゃった』と言っていた。
 だから今、この広いお家にいるのは僕とマスターだけ。
 でも、寂しいと思ったことは無い。
 マスターは基本的にお家にいて、お仕事もお家でしている。
 マスターのお仕事は子供服専門デザイナーで、打ち合わせや商談をする以外、仕事で外出することは殆どなく、いつも仕事部屋(この家で唯一フローリングの部屋だ)に篭って、デザイン画を描いたりサンプルを作ったり、忙しそうな毎日を送っていた。
 そんな忙しいマスターの側で、僕は毎日歌を歌っている。
 正確には、歌うだけの毎日を送っている。
 それは歌うために造られたボーカロイドとして当たり前のことだし、喜ばしいことなのだけれど、それならばわざわざアンドロイド形を購入しなくても、ソフトだけ購入すれば十分な筈なのだ。
 けれど僕のマスターはソフトではなくアンドロイド型である僕を購入し、他に何をさせるわけでもなく、毎日僕に歌を歌わせ、ご褒美にアイスをくれて、マスターがデザインしたお洋服(子供服専門なのに何故か僕のだけ手作りしてくれた)や食事なんかも甲斐甲斐しく用意してくれる。
しかも家事全般、プロ級の手際の良さだ。
 そんな感じで何でも自分でやってしまうマスターなので、僕の仕事は歌う以外、何も無い。
マスターが寝ている時や外出している時は何をしても構わないと言われているので、歌の練習以外は本を読んだりテレビを観たり、時には散歩に出たりと、およそアンドロイドにあるまじき気儘な毎日を送っていた。
 もちろん、僕だってそれが普通だなんて思ってない。
 マスターに何かしてもらうのはとても嬉しいのだけれど、本来僕達アンドロイド型は人間のサポートをするために造られたのだ。コレではなんだかマスターの方が僕に使われているみたいで、嬉しい反面、居心地が悪くてならない。
 そう思って素直な気持ちを伝えてみたら、マスターはキョトンとした顔をして、

『俺にとって家事全般は息抜きだし、カイトを構うのは俺の生き甲斐だから、そんなこと気にしなくていいんだよ?それにカイトはお手伝いロイドじゃなくてボーカロイドなんだから』

 なんて、返されてしまった。
 そう笑顔で言われてしまったら、僕に返す言葉なんて無くて。


 そんなわけで。
今日も僕は、マスターの側で歌うだけの毎日を送っている。







「ねぇねぇカイト、ちょっとこれ着てみてくれるかな?」

 ぽわわんとした面持ちで仕事部屋から出てきたマスターの手に握られていたのは、一着の服。
 タグなんか付いてない、正真正銘マスターの手作り……しかも明らかに出来上がりほやほやといった感じだ。

「また、作ったんですか?ていうかお仕事は大丈夫なんですか、マスター」

 今日は確か、仕事が大詰めだから側で歌わなくていいよと言われたのではなかっただろうか。
 そんなことを考えながら、抱えていたポンデドーナツ型のクッションを放って立ち上がると、マスターはいそいそと近寄ってきて、僕に持っていた服を合わせ始めた。
 どうやら僕の声は聞こえているように見えて、まったく聞こえていないらしい。

「んーやっぱりカイトにはこの色が似合うなぁ。今度コレ着て美味しいご飯食べに行こう♪」

 この間の打ち合わせで、イイ感じのレストラン教えてもらったんだと笑うマスターの目は、どこか焦点が合っておらず、ピンピンと重力に逆らって跳ねた髪の毛が、マスターの危さに拍車を掛けていた。そんなマスターの様子に居ても立ってもいられなくなった僕は、合わせられた洋服もそっちのけで目の前にある両肩に手を置いた。
 こういう場合、絶対にマスターの目を逸らしてはいけない。少しでも付け入る隙を与えたら、マスターよりもずっと口下手な僕なんか、簡単に言い負かされてしまうのは目に見えている。

「……マスター、とっとと寝てください」

「ええーなんでー?俺全然眠く無いよ?」

 それは単にピークを通り過ぎてハイになっているだけです。

 マスターは一度集中するとご飯も睡眠もそっちのけで作業に没頭する。その間に声を掛けても絶対に反応しないから、本人が我に帰るまで待つか、実力行使に出るしかない。
 でも流石にマスターへ実力行使に出るのは気が進まないので、過去に一度だけ―――三日不眠不休で没頭するマスターに生命の危機を感じた時―――しか試したことは無い。
 今回は一日半だったので、その時に比べればずっとマシなのだが、その間の疲労はしっかりとマスターの身体に蓄積されているわけで。
 現に、今現在なんか足元も覚束ないし。
 
「だって急に神が降りてきたんだもん。カイトに着て欲しいって思っちゃったんだもん。カイトの服を作るのは、俺にとって生きがいなんだもん」

 もん…て、貴方一体幾つですか。
 僕に登録されているマスターデータによると、ゆうに30歳超えてた筈なんですが実はデータ不備ですか修正した方がいいですか?

「その生きがいで生死の境を彷徨ってちゃ意味無いでしょう!いいから今すぐ寝てくださいお風呂もご飯も後でイイですから!」

「えーでも糸くずとか付いて埃っぽいしお腹も空いてるし…」

「ソンナモノベッドに横になって三秒数えれば気になりません!!」

「ベッドになんてカイトくんったら積極的~♪」

「そういう意味で言ったんじゃ無いですっっ!!!」

 いいからとにかく寝てください!と恥ずかしさに暑くなっていく頬を感じながらも声を張り上げ、フラフラ状態のマスターの手を引いて寝室まで連れて行き、強引にベッドへと寝かせれば、予想通り三秒と持たずに眠ってしまった。

「………。」

 途端に騒がしかった室内が、耳が痛いと感じるくらいの静寂に包まれる。
 枕に埋もれる寝顔を見下ろし、僕は毛布を掛け直しながらそっと息を吐いた。

「…ホント、自分の事に関しては無頓着なんですから」

 マスターの口から出るのはいつも誰かのため、僕のため。
いつまで経っても、本当に己を労わる言葉は出てこない。

 とても大切にされていることはわかっている。
 絶えない朗らかな笑顔の裏に、闇を抱えていることも。

 多分マスターは、僕がそれに気付いていることを知らない。
 


「……いつかでいいんです。いつか、僕にも見せてくれますか?」

 









 ―――それはとてもささやかな、けれど唯一の僕の願い。





2010.03.18AK





 急に書きたくなった突発マスカイ。
 マスターは天然さんです。
 また書きたくなったら書くかも。






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