ADMIN TITLE LIST
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。




設定を別窓に移しました。
小説は下からどうぞ~
 マスターは動物のお医者さんをしています。

 一番多いのは犬さんや猫さんですが、ハムスターさんやちょっと珍しい動物さんも時々やってきます。
 珍しい動物さんがやって来る度にマスターは眉間に皺を寄せていますが、絶対に診察を断ることはしません。そういった動物さんがやってくる時は、決まって切羽詰った状態だからだそうです。
 マスターは分厚い医学書を開いたりインターネットで調べたりして、その珍しい動物さんの特徴などをある程度把握してから診察します。それで終わりじゃなくて、マスターはその動物さんのことを後でしっかりと勉強してから、もう一度来院してもらうようにしています。

 マスターの病院には須藤さんという、マスターよりも大きな身体の男性の看護師さんがいますが、毎日たくさんの患者さんがやってくるので、二人はいつも忙しそうです。
 そんなわけで、日中は暇だったオレも、自然と病院を手伝うようになりました。
 といっても、受付とか入院している動物さんたちのご飯の用意くらいですけれど、コレだって立派なお仕事だって、マスターは褒めてくれます。


 そんなこんなで、オレは今日もマスターの病院のお手伝いをしています。
 


  












「ほいカイト、お疲れさん」

 ステンレス製の餌皿を洗い終えて振り向くと、両手にマグカップを持ったマスターが立っていた。

「ありがとうございます、マスター」

 お礼を言いながら差し出されたそれを手に取ると、ミルクと砂糖をたくさん入れたカフェオレで、つい顔が綻んでしまう。

「そういえばマスター、須藤さんは?」

 いつもなら一緒に仕事上がりのお茶をしているのに、今日はその姿が無い。

「ああ、今日はデートだって泣きついてきたから先に帰らせた」

 あれ?つい二週間前に彼女に振られたって泣いていなかったっけ。

 告げられた言葉に俺が不思議がっていることに気付いたのか、マスターは苦笑を零しながら口を開く。

「新しい彼女が出来たんだってよ。『彼女こそオレの運命の人だ!!』って叫んでたけど、いつまでもつ事やら」

 須藤さんは、身体が大きくて声も大きい。茶髪にピアスをしていて(仕事中は外してる)見た目は軽薄そうに見える(らしい)けど、実際はとってもいい人だ。ちょっと大雑把なところがあるけど、仕事の時だけは慎重で丁寧だし、性格は真面目で動物も好きだし、オレのことも弟みたいに可愛がってくれている。
 唯一の欠点といえば、不器用でしょっ中女の人に振られてしまうこと。
 オレがマスターの所に来てからだけでも、既に5人に振られている。一月に一回は確実に振られている計算になるのだが、須藤さんはそれでもめげずに新たな出会いと別れを繰り返していた。

「なんで振られちゃうんでしょうね~?須藤さんあんなにイイ人なのに…」

「アイツは不器用だからな。仕事も彼女もって器用な真似は出来ないんだよ。前回も『私と仕事、どっちが大事なのっっ!?』って詰め寄られて、ロクな言い訳が出来なくて結局振られたらしいしな」

「……それって、ココが忙しくなったからですか?」

 どこかの動物ブログサイトでこの動物病院の口コミが話題になってから、急に患者さんが増えてしまい、正直三人でも毎日2時間は残業する羽目になっている。
オレがもっと色んなことが手伝えればいいんだけれど、元々ボーカロイドのオレには、日常生活の簡単なサポートをするくらいしか機能が備わっていない。
それがとっても悔しくて悲しくて、でもマスターは『今でも十分助かってるから。むしろボーカロイドのお前にこんなことさせてゴメンな、ありがとう』と、大きな手で頭を撫でてくれた。

「あ~まぁ。だから今回はちょっと悪かったなーとは思ってんだけど、病院は残業になるのが結構当たり前みたいなもんだからなぁ。急患が発生すれば否が応にも出勤だし」

 マスターの動物病院には、現在須藤さんしか看護師がいない。
つまり急な手術となれば、強制的に出勤してもらうことになる。

「だからそこんとこの理解が得られなかったってコトは、最初から縁が無かったって事だな」

 マスターだって好きで呼び出しているわけでは無いので、俺はその言い分にコクコクと頷いた。
 須藤さんは自分の仕事に誇りを持っている。
 お医者さんでは無いけれど、看護師だって立派な職業だ。
 いくらマスターの腕が優れていたって、常にサポートしてくれる人が居なければ治療が円滑に進まないのだから。

「須藤さんがお仕事をしている姿を、彼女さんが見ていればそんなこと絶対に言わないでしょうにね~」

 (マスターほどじゃないけど)お仕事をしている須藤さんは、とてもカッコイイと思う。
 包帯一つ巻くにしても優しく動物さんの目を見て、柔らかな口調で話し掛けて痛がっていないか慎重に確認しながらしている。
普段の行動は大雑把なのに、こういう時は絶対に手を抜いたりしないのは、やっぱり動物さんが好きだからなんだろう。
 そんなオレの台詞に、マスターは一瞬ビックリしたような顔をして、それから複雑そうな笑みを零した。

「?どうしましたマスター?」

 オレ、変なコト言っただろうか。
 自分の台詞を再解析してみるが特に不審な点は見当たらなくて、オレは左右に頭を振る。
 するとマスターは複雑な笑みのまま、俺の頭をゆっくりと撫でた。

「いや、お前が天然で打算なんてこれっぽっちも無いってのは、重々判ってるんだけどな」

「ますたー?」

 心なしかマスターの頬が赤い気がする…と思っていたら、いつの間にかマスターの腕に抱き締められていた。驚いてカップを放してしまったのだが、いつまで経っても割れる音が響かない所をみると、マスターが素早くキャッチしてくれたらしい。
 ギュウギュウとマスターの胸に押し付けられるように抱き締められてしまったオレは、息苦しさに抜け出そうともがいたのだけれど、健康維持のためにジムで鍛えられたマスターの腕から抜け出すことは叶わなかった。

「ま、ますたっ、くるしーですっ」

「あーもう……独占欲は希薄な方だと思ってたんだけどなー」

 ハァ、と頭上で思いっきり溜息を吐かれて、それからようやく抱き締める腕の力を緩めてもらえた。
 でもまだ完全に開放されたわけじゃなくて、依然オレはマスターの腕の中。
 もう一回脱出してみようと試みるも、あっさり失敗。

「えと…、マスター?」

 お伺いを立てるために上を見ようとしたけれど、寸前のところでマスターの手に阻まれた。

「ぶわっ」

「いま上見んなバカ」

 不機嫌そうなマスターの声にちょっとだけビクリとするが、怒っているわけじゃないことだけは、なんとなくわかる。

「だからって力任せに押さえつけなくてもいいじゃないですか~」

 実は顔を上から掌で止められた拍子に鼻をぶつけてちょっと痛い。
 けれど真正面から掌で抑えられている状態なので、痛む鼻をさすることすら出来ない。

「マスター、何がしたいんですか?」

「煩せぇ。オレは今、己の変わり様に混乱してるんだ。ちょっと黙ってろ」

「……ハァ?」

 ワケがわからない。
 オレはまだ言語メモリーが乏しいし、感情に関する知識も少ないので、ちゃんとした言葉にしてくれなければ理解できない。
 マスターが悩んでいるなら一緒に考えたいし、手助けだってもっとたくさんしたいのに、まだまだ勉強不足なオレにはどうすることもできない。
 掌で顔を抑えられたまま悶々とそんなことを考えていると、だんだん悲しくなってきて、知らず涙が浮かんできた。

「ばっ、ちょっ、泣くなカイトッッ」

 すると、掌に水分が当たったことに気づいたマスターが、慌てたように掌を退けて俺を覗き込んできた。
 ぐんと近くなった、マスターの顔。
 大好きな、ちょっとだけ紫がかった黒い瞳はとても綺麗で。
 目尻に溜まっていた涙が、堰を切ったようにポロポロと頬を滑り落ちる。

「あ~の~な~、何でお前が泣くんだ?」

 悩んでたのは俺なんだぞと、ほとほと困り果てたといった風にしながらも、マスターの指が零れた涙を優しく拭ってくれる。
 それが嬉しくて、また涙が溢れた。

「だっ…、おれ、なんに、も……できなっ」

 マスターが困ってるのに何も出来ないなんて、辛すぎる。

「だーっっっ!!!泣~く~なっての!第一俺が混乱してたのは須藤なんぞに嫉妬しただけであって、お前がンなに悩む必要なんか無いんだぞっっ?!」

「しっ……と?」

 しっと。
 嫉妬。
 意味は確か、『自分と異なるものや、自分から見て良く見えるもの、自分が欲しい(欲しかった)ものなどを持っている相手を快く思わない感情。妬み。』
 でも、何故マスターが須藤さんに嫉妬しなきゃならないのだろう。
 いくら考えてもわからなくて、瞬きを繰り返す。
 その度にパタパタと涙が落ちて、その度にマスターはそれを指で拭った。

 ちょっと手つきが乱暴で頬が痛いです、マスター。



「なん、で……ますたーが、須藤さん、に…しっと、したんです、か?」

 俺が知る限り、須藤さんがマスターよりにも秀でてるトコなんて、身長と体格くらいしか無い。マスターは頭が良いし手先だって器用だし要領だって悪くない。極度の面倒くさがり屋ではあるけれど。
 とにかく、マスターが須藤さんを羨ましがる必要なんて無い筈だ。
 そう、つっかえながらも言うと、マスターは大げさなくらいおっきな溜息を吐いて、ガクリとオレの肩に顔を埋めてしまった。



 え?オレ今変なコト言いましたかマスター?



「ハァ……ホントお前って、小悪魔だ」

 縋りつくようにオレの背中に両腕を回して、グリグリと肩に顔を押し付けてくるマスターから聞こえてきた聞き捨てならない言葉に、オレは思わず声を上げた。

「エエッ!?オレはボーカロイドであって悪魔じゃないですよっ!ちっちゃくもないですし!!」

「あのな……いやいい、今の呟きは流せ。頼むから」

「…ハイ。で、つまりどういうことですかマスター?」

 言語理解能力が発展途上なので、噛み砕いて言ってくれませんとオレには理解出来ません。
 理由を教えてくれなければ、またグルグルと考えてしまうのは目に見えていたので、縋るような気持ちで訊ねると、マスターは顔を埋めたままアーとかウーとか呻り始める。
 あの、マスター。ミニチュアダックスのマイケル君が、マスターの呻り声に反応してビクビクしてるんで止めて下さい。入院患蓄を不安にさせちゃ駄目です。

「……笑うなよ?」

 意味が判らなければ笑いようがありませんと心の中で呟きながら、オレはコクリと頷く。
 今はマスターの言葉を聞くのが先決。

「……お前が須藤のことやけに褒めちぎるから嫉妬した。お前は俺のモンなのに…」



 須藤にカイトを取られたみたいな気持ちになったんだよ。



「…………。」



 なんか、笑うというより驚いた。
 マスターがそんなコト言うなんて、予想範囲外どころの話じゃない。



「ますたー…、」

「うん?」

 横を向くと直ぐ傍にマスターの耳があって、それはいつもよりずいぶん赤くなっていた。
 でもきっと、俺の顔もマスターの耳と同じくらい赤くなっているだろう。



 
 ―――とてもとても、嬉しくて



 どうしてそんな風に感じるのかは、よくわからないけれど。
 何故だか、マスターがくれた言葉は、とても嬉しいものだと思った。


 だから、こんなにも嬉しいと感じる言葉をくれたマスターに、せめてものお返しがしたくて。





『大好きです、マスター』



 オレは、一番伝えたい言葉を口にした。








 ちなみに。
 その一ヵ月後、予想通り須藤さんが新しい彼女さんに振られてしまい、マスターに泣きついていたのは、また別の話。





                                             2008/03/21 AK


[あとがき]
なんだこの少女マンガ風味。
ちょっと穴掘って埋まって毒素抜いてくる。




















管理者にだけ表示を許可する




| HOME |


Design by mi104c.
Copyright © 2017 ぼかろ家, All rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。